47 / 226

10

 キスは想定外、と慌てる昴を置いて、暁斗はその指を咥え込んで吸い、指と指の間をじっくりと愛撫する。  その白い腕を両手で撫でさすりながら、舌を伸ばして這わせてくる。  キスを落とし、舌で舐め、どんどん上へと昇ってくる。  昴は、されるがままだった。  体が次第に火照っていく。 (……嫌じゃない!)  気持ち悪くもないし、不愉快でもない。  暁斗にこうされるのは、悪くない。  ただ、少し怖い。  どんどん僕の体の中に、心の中に暁斗が入り込んでいっぱいにしてしまうのが、少し怖い。 「バラの香りがします」  暁斗はそう囁いて、ついには柔らかな脇の肉を甘噛みした。 「ぁんッ!」  跳ねるような、昴の甘い悲鳴。  それを合図に、暁斗は彼の腕から離れていった。 「これで帳消しです。司書のことは、忘れましょう」  そして、まるで何もなかったように酒を口にする。  僕はこんなに熱いのに。 (胸がドキドキして、張り裂けそうなのに!)  その時、昴の脳裏にフラッシュバックのように走った光景があった。  それは、怒ったまま立ち去る自分自身の姿。  高すぎるプライドが邪魔をして、素直になれない昴の過去。 (これじゃ、ダメなんだ。このままじゃ、いけないんだ!)  勇気を振り絞り、昴は姿勢を直した。

ともだちにシェアしよう!