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「暁斗」 「まだ、何か?」 「キスしても……いいよ」  本気か? と暁斗は手にしたグラスを置いた。  この麗しい美の化身を味わったことは、まだ記憶に新しい。  だが次第に、あれは酒に酔った昴が、ほんの遊びで許したのだ、と思うようになっていた。  その後の彼は、これまでと何の変わりもない、ただの主人だったから。  勤務中でも、わずかな言葉を交わすだけだったから。 「よいのですか?」  月明かりの下の昴は、密やかな夜の気配を息づかせている。  その首が、こくりとうなずいた。  暁斗はゆっくりと顔を近づけ、急に激しく噛みつくようなキスをした。  びくりと昴は強張ったが、容赦はしない。 そのまま唇を割り、乱暴に舌を捩じ込んだ。  深く唇を合わせ、その細くて甘い舌を舐め吸った。  唇でしごきながら、何度も何度も吸った。  ほんの短い間、唇を離すたびに、昴が心細そうな声で名を呼んでくる。  暁斗、暁斗と呼んでくる。  返事もせずに、ただ口を吸った。  唇を、舌を貪った。

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