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「お待たせしました」  タオルで汗を拭きながら、こちらへやってくる暁斗の姿。  それを見ながら、昴は不思議な感覚を味わっていた。  本当に、待ったのに。  待ちわびたのに、別の想いが湧いてくる。  苦しいほどの想いが、せり上がってくる。  昴は腕を伸ばすと、暁斗の傷にそっと触れていた。 「昴さま……どうなさいました?」 「これ、痛かった?」  暁斗が驚いた目を向けると、昴は見たことのない表情をしていた。  眉根を寄せ、心配そうな顔。  切なげな、瞳の色。 (昴さま)  この傷を見た者は、この傷に触れた者は、みんな暁斗を誉めそやしたものだ。  指先でその痕をなぞり、カッコいい、だとか、歴戦の証、などと言ったものだ。  その傷を受けた時の痛みなど、考える者はいなかった。  体だけでなく心にも怪我をしたなどと、考える者はいなかった。 (それが今、初めてこの痛みを共有しようという人が現れた)  暁斗は、胸がいっぱいになった。  優しい気持ちで、満たされた。 「ええ、痛うございました。今でも時折、疼きます」  そして初めて、彼は他者に弱音を吐いた。

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