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「ブドウですか。ありがとうございます。一緒に召し上がりますか?」
「いいよ」
(昴さまが、古傷を労わってくださった)
(暁斗が、優しいって褒めてくれた)
二人して、初めての心地を味わいながら、ダイニングに入った。
そして入るなり、暁斗が唇を合わせてきたのだ。
「んッ! んむ……ッ」
不意打ちのキスに、昴は慌てた。
思わず、ブドウを握りつぶしてしまうところだ。
ただ、暁斗はそれだけですぐに唇を離した。
後は軽く、羽根の触れるようなキスをし、昴の瞳を覗き込んできた。
「私は、昴さまが好きです」
「そっ、そう!?」
「昴さまは、私が好きですか?」
「まぁ……好きだけど?」
その返事にうなずいた暁斗は、さっさと手早くテーブルにパンやワイン、アーティチョークやムスカリのオイル漬けを並べていく。
昴はそれを眺めながら、彼のキスを、言葉を思い返していた。
好きですか、なんて。
(好きに決まってるじゃないか)
突然キスしたり、確かめるように訊いてきた暁斗を、昴は不思議に思った。
時々、何を考えているのか解からなくなるのが、暁斗だ。
(そこも、神秘的に見えちゃうんだけど、ね)
惚れた弱みで、昴には暁斗の何もかもが、好意的に映っていた。
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