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   いつも質素な暁斗の夕食だが、今夜は昴が持ってきたブドウがある。  彼はとっておきの広い絵皿に、昴のルビーロマンを乗せ、テーブルの真ん中に大切に飾った。  これだけで、食卓はぐんと潤いを増した。  暁斗は寡黙な方なので、話しかけるのは昴の方ばかりだ。  だが彼は、必ずちゃんとした受け答えをした。  じっくり考え、口にする。  軽い思いつきや、噂話を根拠にしたような返事を寄こすことはないのだ。  それが昴には、嬉しかった。  社交界の、上辺だけの軽薄な会話とは、違う。 (暁斗は、誠実だな)  そんな彼の魅力を感じながら、昴は暁斗と二人でブドウを味わった。  だがしかし。  気づくと、昴の皿には山のように、ブドウの皮が積み上げられている。  だのに、暁斗はその半分も食べていないのだ。 (せっかく、暁斗に食べさせようと思って、持ってきたのに!)  美味しい、美味しいと、好きなだけ、いただいてしまっている。  今さらながら、我慢することの苦手な自分を、恥じる思いだった。 「昴さま、どうかなさいましたか? お顔が少々、赤いようですが」 「な、何でもないよ!?」  そしてブドウを食べ終わる頃には、日もとっぷりと暮れ、昴はある事に気が付いた。  それは、今の昴にはまだ解らなかったが、これからの二人の関係に重要なポイントだった。

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