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 好きな花はバラではなく、ミヤコワスレと答えた暁斗。  本当は僕のことも、好きではないのかもしれない。 (でも、僕は暁斗が好きだから。誰より一番、好きだから)  だから、このまま彼に身を任せた方がいい。 (でないと、暁斗は機嫌を損ねて。もう僕を、相手にしてくれなくなるかもしれない)  また遊郭へ行って、他の誰かと遊ぶようになってしまうかもしれない。  そんな思いで、胸をいっぱいに膨らませた、昴だ。 (そのうち、気持ちよくなって。暁斗と二人で、熱い時間を過ごせるはず……)  しかし、体は応えても、心が動かない。  意識が、妙に冷え切っているのだ。 (どうしよう。どうしたらいいんだろう、こんな時は)  以前の昴なら、そのまま快楽に身を任せていた。  胸に沸いた深刻な疑問など、一時の享楽でごまかしていた。 (でも、嫌なんだ。僕は、今の暁斗に抱かれたくない)  昴は、勇気を出して暁斗に訴えかけた。 「やだ。嫌だ、暁斗。したくない」 「昴さま、どうして……?」  体はいい反応を返してくるのに、そむけた顔の瞳には涙が浮かんでいる。 (あんなに嬉しそうに、はしゃいでおられたのに)  暁斗は、静かに身を起こした。 「失礼いたしました」  そして、ベッドに昴を残したまま寝室を出ていった。

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