101 / 226
7
釈然としないまま、暁斗は夕食の準備を始めた。
床に、カミツレソウの花束が落ちている。
それも拾ってグラスに活け、テーブルの上へ飾ってみた。
(そういえば、花の話をした頃から、急にご機嫌が悪くなったような気がする)
二人分の簡単な支度を整えていると、のろのろと昴が寝室から出てきた。
「暁斗。お風呂、借りるよ」
「どうぞ、ご遠慮なく」
風呂からあがれば、気分も変わっているかもしれない。
そう考えながら、暁斗は瓶詰の蓋をまわした。
耳を澄ませていたが、バスルームはやけに静かだ。
いつもなら、昴は盛大な音を立ててシャワーを浴びたり、バスタブの湯をあふれさせたりするのだが。
そして、入った時と同じように、昴は沈んだ様子で浴室から出てきた。
髪を乾かす間も、無言。
しかし、お腹は空いていたのか、昴は暁斗の用意した夕食をぱくぱく食べた。
その仕草には、彼の持つ優美さが、やや欠けている。
(やはり、ご機嫌が悪いと見える)
暁斗は肩をすくめる心地で、エビの乗った皿を昴の方へ寄越した。
塩をふって丸ごと焼いただけの、素朴な料理だが、暁斗にしては上出来だ。
キッチンへ立つことなど滅多にないこの男が、調理めいたことをやっている。
昴の胸は、ふわりと温まった。
ともだちにシェアしよう!

