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「おいしい」
「それは良かった」
簡単な会話だが、一度交わすと後が続きやすい。
昴は、まだ怒ってるんだから、といった響きをわざと含めて、暁斗に話しかけた。
「これ、どこに咲いてたの?」
食卓を飾る、カミツレソウの花。
初夏に咲く、何の変哲もない花。
嬉しくなんて、ないんだから。
そんな響きで、話しかけた。
「ニワトリの放牧場があるでしょう。あそこに咲いていました」
緑豊かな養鶏場は、屋敷からずいぶん離れたところにある。
(あんなところまで、暁斗は足を伸ばしてくれたんだ……)
彼のひたむきな愛情が、昴にはちゃんと届いた。
「ニワトリは牧草をよくむしりますが、この花だけは苦手のようです。たくさん残っていました」
「きっとニワトリは、カミツレソウの香りが苦手なんだよ。別名は、カモミール、っていうハーブだから」
「なるほど。さすが、博学ですね。しかし、私が花を失敬しようとすると、つつきました」
確かに暁斗の腕には、赤い痕がいくつも残っていた。
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