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ニワトリにつつかれ、追い払い、またつつかれながら花を摘む、暁斗の姿。
そんな情景を思い描いて、昴は笑った。
「笑って、ごめん。必死で、この花を摘んでくれたんだね。でも、ごめん。あぁ、可笑しい!」
昴の、無邪気な笑顔。
その明るい表情に、暁斗はようやく安心した。
怒った顔は魅力的だ。
泣きっ面にもそそられる。
(だがやはり、この御方には笑顔が一番よく似合う)
エビを片手に、昴はまだ笑いを含んだ声だ。
「エビは美味しいけど、殻を剥く時に手が汚れちゃうな」
「貸してください。剥いて差し上げましょう」
暁斗は、もくもくとエビの殻を剥いていく。
剥いてもらったエビをつまんで、ぱくりと頬張る昴のご機嫌は、すっかり治っていた。
暁斗に対する疑念も、晴れていた。
(やっぱり暁斗は、僕を好いてくれてる!)
念のため、試してみることにしたが。
「ねえ、暁斗。もう一度訊くけど、好きな花は何かな?」
そう言って、昴は胸に飾った赤いバラを手に取り、暁斗の前でくるくる回して見せた。
ことさらに見せつけ、その鼻先にまで押し付けた。
そこまでされて、暁斗はようやく悟った。
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