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『ねぇ、暁斗。暁斗は、何の花が好き?』 『そうですね、ミヤコワスレが好きです』 『ミヤコワスレ?』 (昴さまは私に、バラが好きだ、と言って欲しかったのか)  バラの花は、いわば昴さまの分身なのだから。 「そうですね、ミヤコワスレが好きでした。以前は」 「以前は、って。今は?」 「バラです。バラの花が、大好きです」 「よくできました!」  ふふん、と誇らしげに笑う、昴。  こんなドヤ顔でさえ愛らしいのだから、まったくもって参った。 (多分私は、もはや病気に違いない)  どんな名医でも治せない、恋の病だ。 「暁斗、エビ臭いよ。お風呂に入って来て」 「解りました」  これで許してくれた、ということが、暁斗には解かった。  そして、湯から上がれば、その体も許してくれるという事も。  エビ臭いと言われてしまったので、暁斗は念入りに手を洗った。  汗を流し、さっぱりしてバスルームから出ると、ダイニングに昴の姿が無い。  テーブルに飾っておいた、カミツレソウの花も、無い。  代わりに、バラの花が一輪、グラスに活けてあった。

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