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第五章 全ては君を愛するために
朝一番に会った昴は、不機嫌そうだった。
空はこんなに青いのに、唇を曲げている。
風はこんなに心地いいのに、眉根を寄せている。
(これは、挨拶をしても、しなくても、結局は非難を浴びるな)
そんな風に解かりきっていたので、暁斗はこの不機嫌な主人に声をかけた。
「昴さま、おはようございます」
「おはよ……」
なぜか片手を額に当てたまま、無愛想な返事をよこす、昴だ。
不機嫌な彼には慣れているが、額を押さえる姿はいつもと違う。
頭痛でもするのかと、暁斗は手を伸ばした。
「どうかなさったのですか」
「さわるな!」
乱暴な言葉を使いながらも、慌てて逃げる所が怪しい。
頭にコブでもこしらえたかと、暁斗は腕を伸ばした。
昴が、そんな暁斗の手を払った拍子に、額を押さえていた手のひらが外れてしまった。
「あっ!」
手が離れた途端、ぴょこんと一房の前髪が、元気に跳ね上がった。
「……アホ毛、でしたか」
昴は迂闊にも、美しいその髪に寝癖を作ってしまったのだ。
人に見られると恥ずかしいから、と必死で抑えていたのだ。
昴は頭痛でも、コブを作ったわけでもなかった。
(良かった。ひとまず安心だ)
しかし昴は、緩んだ暁斗の表情を見て、真っ赤になって怒鳴った。
「笑った! 笑ったな、暁斗!」
暁斗の胸倉を両手で掴んで、がくがくと揺さぶった後、猛然と走ってその場から消えてしまった。
朝に会った昴は、こんな調子だった。
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