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「いかがかしら? お味のほどは」
その目の色は、根拠のない自信に満ち溢れている。
暁斗が、自分の焼いた菓子を、美味いと褒める声を待っている。
そんな久保田の取り巻きの女性たちは、懇願するような視線を暁斗に向けてくるのだ。
『柏さま、どうかお願いいたします!』
『美味しいと、おっしゃってくださいまし!』
『彼女のご機嫌を、損ねないでくださいませ!』
暁斗は、嘘や誤魔化しは好きではない性分だ。
しかし、自分が救う事のできる人間を見殺しにするほど、冷血ではなかった。
もし正直に不味いと言えば、高慢な久保田は怒り狂うだろう。
(そして、そのとばっちりを受けるのは、この女性たちだ)
そんなリスクを知っていながら、彼女の周りで愛想笑いをしているのだから、自業自得ではあるのだが。
(彼女らの人間関係は、恐ろしいな)
薄ら寒さを感じつつ、暁斗は一言だけ感想を述べた。
「香ばしいですね」
取り巻きの女性たちは、それを褒め言葉としか受け止めず、口々に久保田の腕前を称えた。
再び、きゃあきゃあと、騒がしい事この上ない。
暁斗は、これ以上は付き合いきれないと、踵を返して元来た道を歩き始めた。
背中から久保田のひときわ甲高い声が呼んでいたが、振り返る気にもなれなかった。
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