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「噂になってるよ。暁斗が、久保田先生の作ったお菓子を食べた、って」 「はぁ」  それは事実だ。 (確かに私は、あの人の菓子を食べたが。それと私の結婚と、何の関係が?) 「それでね、『毎日あなたの手料理を食べさせて欲しい』ってプロポーズした、って」 「えっ……!?」  暁斗は、言葉を失った。  そして、意外に感じていた。 (おそらく、久保田女史とその友人たちが、話を大きくしたのだろう)  私が焼き菓子を一口食べただけで、そこまで尾ひれを付けたのだろう。  だが、それ以上に昴の反応に驚いていた。 (私が、勝手に昴さま以外の人間と結婚すると知れば、激しくお怒りになられると思っていたが……)  ただ、静かにうなだれる、昴。  そんな彼の肩を、暁斗は改めて引き寄せた。  細くて小さな顎に手を掛け、上を向かせると、雲の切れ間から覗いた月の光に瞳は濡れて光っていた。

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