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第六章 成長はしたけれど……?

 とぼとぼと回廊を歩く昴は、自分の名を呼ぶ声を聞き、物憂げに顔を上げた。 「どうなさいましたか? お元気のない、ご様子で」  声を掛けてきたのは、藤原家の執事の一人・古川だった。  暁斗と同世代だが、地方から出てきた彼と違って、代々この藤原家に仕えるエリート執事だ。  また、外見も性格も、全くの正反対。  長身イケメン、という点は両者とも同じだ。  しかし、クールで寡黙な暁斗と違い、古川は二重瞼の大きな瞳まで使って、喜怒哀楽を表現する。  そして、明るく社交的な話術で、周囲を沸かせるのだ。  多くの人間が、古川に好感を持っていた。  そんな彼が心配そうに眉根を寄せ、昴の傍へと駆け寄ってくる。  昴も古川を悪くは思っていなかったので、まずは立ち止まった。  そして、彼の心を軽くするため、模範解答を口にした。 「ありがとう。でも、何でもないよ」 「そう、おっしゃいましても」  離れてくれない、古川だ。 「体調がすぐれない、とか。いえ、もしや心にお悩みが?」  さらに畳み掛けてくる、古川だ。 (おかしいな)  昴は胸の内で、彼を少しわずらわしく感じた。 (大抵の人間は、こう言えば僕を解放してくれるのに)  そっとしておいてくれるのに。

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