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「浮気なんかしてたら、ただじゃおかないんだから。バカ暁斗!」 「誰が、馬鹿でございますか?」  小さな言葉をさとく拾った声に、昴は驚いて飛び上がった。  あぁ。だけど、この声は! 「暁斗!」 「ただいま戻りました。昴さまは、お元気でしたか……わずか10日間では、大袈裟ですね」  近づいてくる暁斗に、昴は抱きつきたかったが、必死で抑えた。  先程の古川のように、誰がどこから見ているか、解からないのだ。 「研修は?」 「予定通りに終わりました。旦那様にも、これから報告しなくては」 「お父様より先に、僕に会いに来てくれたなんて!」  昴はそれだけで、舞い上がってしまった。 「ね、暁斗。今夜、僕の部屋へ来てもいいよ。軽食でも用意して、待ってるから!」  昴が自室へ招いてくれることなど、滅多にない。  暁斗は驚き、また嬉しく思った。 「ありがとうございます。たまには、留守にしてみるものですね」  では夜に、と暁斗は去って行った。  その背中を、昴は夢見心地で眺めていた。

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