155 / 226
16
はつらつと回廊を歩く昴は、自分の名を呼ぶ声を聞き、意気揚々と顔を上げた。
「さすがは、昴さま! 見事な手腕、すばらしい御仕事ぶりでございます!」
声を掛けてきたのは、古川。
先だって、短い会話を交わした、あの執事だ。
「例の花園は、今後もそのまま維持と決定されました。昴さまのおかげです」
「いやぁ、大したことじゃないよ」
そうやって謙遜なさるところも素晴らしい、と古川はとにかく褒めてくれる。
「しかし。一体どうやって、旦那様を説得なさったのです?」
「それはね……」
昴は、屋敷の図書館で調べた文献について、語った。
かなり昔の文献に、花園の由来について書かれたものを見つけたのだ。
『お父様。僕は、噴水を造るために花園を潰すことには、反対です』
『なぜかな? ちゃんとした理由なしには、中止にできないが』
『この資料を、ご覧ください。あの花園は、藤原家の祖先の御霊をお慰めするために、造られたのです!』
『400年以上も前の、古文書じゃないか。昴は、これを解読したのか?』
『ご先祖様への花々を、育てるための花園です。簡単に潰してよいものではありません!』
まだまだ子ども、と思っていた昴が、堂々と意見したのだ。
父は昴を見直し、花園はそのまま維持する、ということとなった。
ともだちにシェアしよう!

