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 はつらつと回廊を歩く昴は、自分の名を呼ぶ声を聞き、意気揚々と顔を上げた。 「さすがは、昴さま! 見事な手腕、すばらしい御仕事ぶりでございます!」  声を掛けてきたのは、古川。  先だって、短い会話を交わした、あの執事だ。 「例の花園は、今後もそのまま維持と決定されました。昴さまのおかげです」 「いやぁ、大したことじゃないよ」  そうやって謙遜なさるところも素晴らしい、と古川はとにかく褒めてくれる。 「しかし。一体どうやって、旦那様を説得なさったのです?」 「それはね……」  昴は、屋敷の図書館で調べた文献について、語った。  かなり昔の文献に、花園の由来について書かれたものを見つけたのだ。 『お父様。僕は、噴水を造るために花園を潰すことには、反対です』 『なぜかな? ちゃんとした理由なしには、中止にできないが』 『この資料を、ご覧ください。あの花園は、藤原家の祖先の御霊をお慰めするために、造られたのです!』 『400年以上も前の、古文書じゃないか。昴は、これを解読したのか?』 『ご先祖様への花々を、育てるための花園です。簡単に潰してよいものではありません!』  まだまだ子ども、と思っていた昴が、堂々と意見したのだ。  父は昴を見直し、花園はそのまま維持する、ということとなった。

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