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 昴の両親がくつろぐリビングから退出した古川は、回廊を歩きながら小声でつぶやいた。 「おそらく昴さまは、屋敷内の人間に心惹かれておいでだ」  外出をしない日でも、パーティーが無い日でも、やけに晴れやかな顔をしている昴を見ることが多い、この頃だ。  屋敷の中で、昴の気分はジェットコースターなのだ。 「そして、そのお相手は……柏 暁斗」  間違いなく、二人は愛し合っている。 「昴さまの成長はもちろん、あの柏もすいぶん人間味が増したからなぁ」  生真面目が服を着て歩いていたような、暁斗。  以前の彼は昴のわがままに振り回されて、ひどく悩んでいる様子だった。  私の真心を、昴さまは受け取ってくれない、と。  ところが、どうだ。 「最近の柏は、とても人柄が柔らかくなったし、昴さまを丸ごと受け止める度量も備わった」  暁斗もまた、劇的に成長しているのだ。  そしてそれは、昴を想う愛情のなせる業に違いない。  古川は、そこまで思いを馳せた後、考え込んだ。 「柏に、知らせるか? 昴さまの縁談を」  どうする……? 「いや、まだ早い。何せ、候補者三名の身辺調査も、まだなんだ」  早々に騒ぎ立てて、二人に心配をかける必要は、無い。  三人に何らかの欠点が見つかれば、この縁談は流れるのだ。  それからでも、遅くはない。 「しかし……よりによって、昴さまと柏が、ねぇ……」  人は見かけによらないな、と古川は肩をすくめた。  後は背筋を伸ばし、与えられた職務を全うすべく、歩みを速めた。

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