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「失敗した……」  自室で独りになると、昴の胸に淋しさが押し寄せてきた。 「日中に、古川とお喋りして、はしゃぎすぎたんだ」  その揺り返しが、夜に来た。  話す相手は無く、寄り添う相手も無く。  昴は一層つのる淋しさに、耐えなければならなかった。  部屋の隅には、大きなキャリーバッグ。  中に詰めた旅行支度もそのままに、転がしてある。 「……やっぱり、暁斗について行けばよかった!」  あのバッグを彼に任せて、車に乗ればよかった。  電車に乗って、飛行機に乗ればよかった。  知らない土地へ、行けばよかった。  暁斗と二人で、知らない景色を眺めたかった。 『心が晴れない時には、体を動かすに限ります』  古川の言葉が、思い出された。    そこで昴は、ベッドの上で腹筋運動など始めてみた。  しかし、やはり空しいだけなので、やめた。 『御心は、晴れましたでしょうか?』  古川の言葉が、また思い出された。  そして昴は、こう答えたのだ。 『うん。今夜は、ちゃんと眠れそうだよ』  そうだよ、と昴はうなずいた。 「今夜は、よく眠れるはずだ。昼間、あれだけ歩いて喋ったんだから」  最近、暁斗恋しさのせいか、不眠気味の昴だ。  しかし、体は疲れている。  ぐっすり眠れるような、気がする。 「もう、寝よう」  昴は、まだ早い時刻に、さっさと眠ってしまった。

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