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第八章 運命の分岐点
「ね、暁斗。今日の午後は、何をしようか?」
「川沿いをお散歩、などいかがでしょう」
「うん、解った!」
嬉しいな、楽しみだな、と昴はご機嫌で、昼食のデザートをつついている。
このところ、暁斗はよく彼を外出へと誘っていた。
屋敷の外へと連れ出し、一般社会の空気に触れさせていた。
暁斗は一ヶ月間、研修で外勤のはずだったが、それが二週間で済んだため、シフトに空きができたのだ。
そこで、思いがけずフリーになった時間を、できる限り昴と共に過ごすようにしていた。
彼を少しずつ庶民の生活に慣れさせ、ゆくゆくは。
(ゆくゆくは、私の海外留学へ御同行いただきたい)
暁斗は、昴と共に海を渡る夢を、膨らませていた。
藤原邸の中では、昴はどうしても彼の主人だ。
二人きりの時も『昴さま』と呼んでしまう。
しかし、屋敷を離れて一緒に暮らすようになれば、主従関係も薄くなるのではないか。
そう、暁斗は考えるようになっていた。
文字通り、それは夢だ。
以前の暁斗なら、強いストッパーが掛かる、現実味のない危険な想い。
事実、研修に出る前の彼の考えは、違っていた。
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