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『暁斗の留学がうらやましいから、僕もついて行って海外で勉強したい、ってお父様にお願いするよ』 『突然に、結婚したい、って言うより、巧くいくんじゃないかな?』  あの時の、真剣な昴のまなざしが、目に浮かぶ。   『そんな顔、しないで。僕を信じてよ!』  そうだった、と暁斗は首を横に振り、一息にグラスを干した。 「信じるんだ、昴さまを」  あんなに、一生懸命に。  真剣に、将来を考えてくださっていたんだ。 「それを疑うなど。全く私ときたら、情けない男だ」  だがしかし。  暁斗は、そんな昴に返した言葉も、忘れてはいなかった。 『しかし、それでは昴さまが旦那様に、お叱りを受けるのでは?』  そう。  それは今でも、暁斗の心に影を落としていた。 「私が原因で、昴さまと旦那様との関係が悪くなるようなことは、避けなければ」  では、どうすればいいのか。  暁斗は、溶けて小さくなったグラスの氷を、見つめた。  見つめながら、考えていた。  そして、氷がすっかり消えてしまう頃、考えをまとめて顔を上げた。  その瞳の迷いも、消えていた。  

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