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「お母様、お願いがあります」 「まぁ、どうしたのかしら。昴ったら、突然ね」  また何か、欲しいものがあるのかしら、などと母は笑顔だ。 (お父様はご不在だけど、もうこれ以上は引き延ばせない!)  暁斗が旅立つ日まで、あと10日ほどしか残されていないのだ。  昴はさすがに、焦っていた。  だが母は、のんびりとティーカップを傾け、紅茶を楽しんでいる。  そして、彼女の方から提案を始めたのだ。 「ね、昴。良いお話しが、あるのだけれど。どうかしら?」 「良いお話し、ですか?」  母のご機嫌を損ねたくはなかったので、昴はまず彼女の話に耳を傾けた。  次の言葉に、目を三倍ほど大きく見開くことになったが。 「大野原伯爵の三男・智弘さん。あの方とのご縁を、結べそうなの。昴、結婚なさい」 「え……えぇっ!?」 「そんなに驚かなくても。あなたも、よく知っている御方でしょう?」 「え、あ、はい。でも、智弘さんは、お兄様のようにお慕いしているだけで!」  晩餐会などで、昴はよく智弘と歓談していた。  明るく知的で、気の利く年上の御曹司。  昴は智弘を、言葉通り兄として慕っていた。  好きな人ではあるが、結婚対象としては全く見ていなかったのだ。  うろたえる昴は、自分の言いたいことなど、頭から吹っ飛んでしまっていた。  何かと難癖をつけては、この縁談から逃れようと必死だ。  母親は、そんな昴を笑顔で見ていたが、同時に冷静に観察してもいた。 (昴ったら、こんなに取り乱して。もしや、心に好きな御方を秘めているのでは?)  結局、昴は母へのお願い事を告げることなく、リビングからふらふらと出て行った。

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