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昴が部屋から出て行った後、母・時子(ときこ)は自室へと戻った。
そしてすぐに、彼女の専属執事である古川を呼んだ。
女性である時子には、同性の専属執事がちゃんといる。
しかし、古川は特別に男性執事として、彼女に仕えていた。
理由は、シンプルだ。
背が高いから。
これだけだ。
時子を取り巻く、執事をはじめとする使用人たちは、みんな女性で固めてある。
一番の高身長でも、177㎝がマックスで、186㎝の古川には及ばない。
女性では手の届かない、高所の作業や物を取るなどの仕事を、古川は任されていた。
「お呼びでしょうか」
「よく来てくれたわ、古川」
そして時子は、人払いをした。
また、歴史を刻んだアンティークの欄干が壊れたかな、くらいの気軽さでやって来た古川は、驚いた。
今この部屋には、時子と古川だけだ。
(何か、秘密のお話しがあるに違いない)
古川の考え通り、時子はやや声を潜めて問いかけた。
「最近、昴に想い人ができたような素振りは、ないかしら?」
これはまた、答えにくい質問だ。
古川は、わずかの時間で、昴と暁斗との関係を伝えるか否かを迫られてしまった。
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