189 / 226

10

 時子の目は、にこやかだ。  だが、真っ直ぐに古川を射ている。  そんな眼差しに、古川はまず軽い返答で様子をうかがった。  暁斗と昴の仲を、悪くは思っていない。  できれば、応援したい。  そんな気持ちからの、答えだった。 「確かに昴さまには、好意を寄せる人間がいらっしゃるようです」 「そう。では、どこのどなたかしら?」 「申し訳ございません。そこまでは、存じておりません」 「隠しても、ダメよ。私にも、心当たりはあるのだから」  短いやり取りだったが、時子は古川の言葉から手がかりを掴んでいた。 『確かに昴さまには、好意を寄せる人間がいらっしゃるようです』  彼は、好意を寄せる御方、とは言わなかった。  好意を寄せる人間、と表現したのだ。 (社交界の方ではない、ということね。では、古川と対等か、もっとポストの低い人間だわ)  そう判断し、さらに揺さぶりをかけた。 『隠しても、ダメよ。私にも、心当たりはあるのだから』  本当は、全く解らないのだ。  だが、こう言って、古川を半ば脅した。  何もかも、お見通し。  さっさと白状なさい、と。  古川は、頭のいい人間だ。  しかし時子は、その上をいく聡明な人間だった。

ともだちにシェアしよう!