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 古川が難しい顔をして回廊を歩いていると、暁斗が反対方向からやって来た。  ほんのさっき、話題に上った彼が。  やけに大股で、早足で。  そして、唇を固く結んで。  その姿、様子に、古川は胸騒ぎを覚えた。 「柏、どうしたんだ? そんなに急いで、怖い顔して」  彼が声を掛けたので、暁斗は立ち止まって首を傾げた。 「私は今、怖い顔をしていたか?」 「ああ。あまり見ないな、君のそんな表情は」  そこで暁斗は、自分の頬に手のひらを当てた。  当てたままで、また訊ねた。 「時子さまは、ご自分のお部屋へおいでだな?」 「そうだが……面会するのか?」  暁斗は無言で、こくりと首をひとつ縦に振った。  そして、やはり無言で去って行く。  そんな暁斗の言動に、古川は確信した。 (柏は、昴さまとのことを、時子さまに打ち明ける気だ!)  これはもう、じっとしてはいられない。  黙って、放っておくわけにはいかない。  敵陣に、単身突っ込む戦友を助けるような心地で、古川は彼の後を追った。

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