209 / 226

30

「さて。明日は早起きをして、片付けものや荷造りがあります。ですから、今夜のエッチはお預けです」 「わぁ! 暁斗の口から『エッチ』とか出た!?」  冗談です、と笑いながら、暁斗は昴の傍に腰掛けた。  昴は彼の肩に頭を預け、静かに瞼を伏せた。  それと同じくらい静かに、ささやいた。 「何だろう。とっても、穏やかな気持ちだよ」  以前の昴なら、しばらく会えなくなるのだから、肌を合わせたい、とわがままを言うところだ。  そんな昴の手に、暁斗は指を絡ませて、そっと握った。 「暁斗の手、あったかいな……」  瞼を閉じたまま、昴は安らかな時に身を任せた。 「昴さま。愛しています」 「ありがとう、暁斗。僕も、愛してるよ……」  滅多に聞くことのない、暁斗のストレートな愛情表現も、昴は胸にじんわりと染み込ませた。  もう、驚いたりしない。  たとえ彼らしくない言葉でも、それは昴の心に真っ直ぐに伝わってくる。 「空港まで、絶対に見送りに行くね」 「ありがとうございます。でも……」 「でも?」 「そうなると、離れがたくなりますね」  飛行機が、このまま飛ばなければいいのに、と思ってしまいます。  そんな暁斗のジョークも、昴の耳に心地いい。  暁斗の旅立ちの日まで、あとわずか。  しばしの別れを、二人は惜しんだ。  もたれ合い、優しい言葉を交わしながら、惜しんだ。

ともだちにシェアしよう!