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『まるで、時を遡っているようでしょうね』
(時を……遡る……)
あれっ?
今、何か大切なことを思い出しかけた……ような……気が?
「昴さま、お支度が整いました。ダイニングで、旦那様と時子さまがお待ちです」
「えっ? あ、うん。お父様とお母様が?」
自分が7回目のタイムリープを送っていることを、すでにすっかり忘れている、昴だ。
彼が迂闊だから、ではない。
冥界の審判者たちが、仕組んだことだ。
昴は、過去を省みて、想い人と結ばれるにふさわしい資質を獲得できるかを、試されていた。
回廊を、古川と共に歩きながら、昴は一生懸命に思い出そうとした。
(もうちょっと、なのに。ここまで、出かかっているのに)
だが、どうしても思い出せないのだ。
心に何かを引っ掛けたまま、彼はダイニングルームへ到着した。
重厚な両開きのドアが静かに開かれ、室内へと進むうちに、昴の疑問は別のものにすり替わった。
(珍しいな、お父様もお母様も、ご一緒だなんて)
一体、どうしたんだろう。
席に着く頃には、思い出せない不思議な何かは、すっかり忘れてしまっていた。
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