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「昴に、お知らせがあるの」
母の口調や表情から、聡い昴はピンときた。
(これは。智弘さん絡みの、お話しだな)
思った通り、時子は智弘とのディナーの件を、持ち掛けてきた。
「お夕食を一緒に、ということだったのだけれど。ランチでも、いいかしら?」
「僕は、一向にかまいませんが」
「そう、良かったわ」
時子は安心した様子で、少々言い訳めいた言葉を続けた。
「智弘さん、お仕事が忙しいらしいの。なかなかお時間の都合が、取れないそうなのよ」
「あの方は、実業家ですからね。お忙しいのは、僕も解ります」
胸の内で、さらにこんなことも考えた。
(ディナーよりランチの方が、気軽だし。僕としても、万々歳だよ)
ただ、時子のお知らせは、さらに続いた。
「しかも、そのランチが今日なの」
「えぇっ?」
「先方も、急で申し訳ない、とおっしゃったわ。どうしても、スケジュールが開かない、と」
「それでは、仕方がありません。お受けします」
素直に、臨機応変に判断する昴に、時子はホッとした表情を見せた。
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