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『昴、ランチはホテル・アスカで12時からだ。急いで、支度をしなさい』 「そんなこと、言ったって。まだ9時だよ? 早すぎないかな?」 「旦那様は、昴さまを心配なさっているのでしょう」  プライベートルームへ戻った昴は、ランチへ着ていくスーツを選びながら、古川にぼやいていた。 「それに、会場へはお車で1時間は見ておかないと」 「1時間は、かからないよ。40分くらいだよ」  他愛ないことを、古川と話す。  暁斗ではなく、古川と、だ。  昴の胸は、そのたびに締め付けられる。  いつもなら、暁斗と共に過ごす時間。  いつもなら、暁斗と共に交わす会話。 「昴さま……大丈夫ですか?」 「えっ? あ、ごめん。うん、平気だよ」 「いいえ。柏がお傍にいないから、ですね? とても、お辛そうです」 「ホントに、ごめん。古川に、落ち度はないんだ。ありがとう」  それより、と昴は話題を無理に変えた。 「お父様も、ランチに同席されるのかな?」 「それが。私は旦那様より伝えられては、おりません」 「そう……」  ここに来て、何か秘められたものがある。  昴は、それを不吉に感じていた。

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