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 昴は、とっさに古川を見た。  彼は、心配そうな表情を、ずっとこちらに向けている。 「古川は、知ってたの? 暁斗の出発が今日、ってこと」 「私は、お車の準備中に、旦那様に呼ばれて。簡単ではありますが、説明を受けました」 「じゃあ、ほんのさっきまでは、知らなかったんだね?」 「はい」  良かった、と昴は息を吐いた。 (この上、古川まで僕に隠し事をしてたら、人間不信に陥りそう) 「昴さま。まだ、お手紙には先がございます。お読みください」 「……うん」  読み進めるのが、怖い。  また何か、厳しい現実を突きつけられそうで、怖い。  それでも昴は、前へ進むしかなかった。  二枚目の手紙には、こう綴られてあった。 『柏は、心から昴を愛している。  だから、二人で渡航したいと申し出たんだ。  私もお母様も、それには賛成する。  ここまで深く愛し合っている君たちを、二つに裂くことはできない。  ただ、柏の留学は、本来なら彼自身のスキルアップのためだ。  自分を磨き、より高め、昴に相応しい人物になるため、と聞いた。  ならば、まずは半年間だけでも、一人で頑張ってみないか、と持ち掛けたのだ。  異国の風土に慣れ、その中で勉学に励み、昴を受け入れて欲しい、と』

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