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 最後の便箋には、昴の留学にも手続きや入学試験があるので、半年の猶予が欲しかった、とあった。 『昴、私は決して君をだますつもりは、無かった。  それは、お母様も同じだ。  柏も、そうだ。  君は、私を恨むかもしれない。  しかし、お母様は許してあげて欲しい。  柏の愛を、疑わないで欲しい。  半年だけ、我慢しなさい。  そして、その時こそ柏の婚約者として、海外へ旅立ちなさい』  父からの手紙には、暁斗と昴の将来まで見据えた、年長者らしい言葉が詰まっていた。  終いには、涙でにじむ文字が読みづらかった。 「お父様……暁斗……」  僕は、僕は、どうしたらいい?  父の言いたいことは、理性では解る。  しかし感情では、暁斗を想う気持ちで張り裂けそうなのだ。 「そんな……ひどいよ……見送りもできないなんて……」  そこへ、古川が早口で言った。 「昴さま、まだ時間はございます」 「えっ?」 「今からなら、13時15分に間に合います。空港で、柏に会えますよ」 「でも、そしたら。12時に約束した、智弘さんとのランチが」 「理由を話せば、解ってくれる御方です。大野原さまは」  それはまるで、天使のひらめきのような。  悪魔のささやきのような、古川の言葉だった。

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