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『今からなら、13時15分に間に合います。空港で、柏に会えますよ』
そんな古川の言葉は、昴の感覚を麻痺させるには充分だった。
『でも、そしたら。12時に約束した、智弘さんとのランチが』
『理由を話せば、解ってくれる御方です。大野原さまは』
そう、だよね。
智弘さんは、お兄様のように優しい方だから。
僕のわがまま、許してくださるよね。
昴は、走行中にもかかわらず、シートベルトを外した。
そして、リアシートから身を乗り出し、運転席に近づいた。
ドライバーは、熟練の腕を持つ村山だ。
突然に昴から声を掛けられても、驚いてステアリング操作を誤ることはなかった。
「ね、村山。お願いがあるんだけど」
「何でしょうか、昴さま」
「うん……」
「どうか、なさいましたか?」
「ごめん。やっぱり、何でもない」
昴は村山に、行き先を空港に替えてくれ、とは言わなかったのだ。
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