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 落ち着いてリアシートに身を沈め、再びシートベルトを締めた、昴だ。  その様子に、古川は驚いていた。 「よろしいのですか? 柏に会いに行かなくても」 「大丈夫。僕も暁斗も、大丈夫なんだ」  大きく息を吐いた後、昴はちょろりと舌を出した。 「ホントは、この先を右折して高速に乗って。空港まで全速力! って言いたかった」 「昴さま」 「だけど、そうやって僕が見送りに行くと、皆が悲しむことになるんだ」  昴は、自分のわがままを通せば、周囲を巻き込み困らせると、気付いたのだ。  古川は監督不行き届き、村山は職務放棄と見なされ、処罰を受けるだろう。  忙しい中、時間を作ってくれた智弘にも申し訳ない。  約束を破った藤原家は、社交界での信用を失う。  昴と暁斗の自律を願った、父と母の思いを、踏みにじる。  そういった、人に対する細かな心配りを、昴はいつしか身に着けていた。 「何より、暁斗が困ってしまうよね」 「柏も、ですか?」 「そう。昨夜ね、二人で話したんだ」  昴は、まだ記憶に新しい会話を思い出していた。

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