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「もし昴くんが、行き先を空港へ変えていれば、その途中で多重事故に巻き込まれ、生を終えることになっていた」
「危ないところだったんだね……」
「うん。今までは、ずっとそうだったんだ。6回の死に戻りまで、繰り返していたよ」
「僕って、進歩がないなぁ」
そうでもない、とロキは昴の頭を撫でた。
「7回目のタイムリープで、君は私に何を願ったか、覚えてる?」
「もちろんだよ。素直な心と、勇気」
6回も人生の一部を繰り返しながら、そんな素朴な特性を、昴は願った。
さらなる美貌や、社交性ではなく。
気を引く言葉の語彙力や、艶っぽさでもなく。
表面的な魅力より大切なものに、昴は気づいたのだ。
「さぁ、今からの人生は、全く未知の新しいものだ。生きていく覚悟は、あるかい?」
「もちろん! 僕は、一人じゃない。いつでも傍には、暁斗がいるんだ」
暁斗だけではない。
両親や兄姉を始め、古川や藤原家に仕える、大勢の人たち。
街中ですれ違う、見知らぬ誰かにさえも、昴は感謝するようになっていた。
「僕の人生に関わってくれて、ありがとう、ってね!」
「その意気だ。しっかり、やりなよ。応援してるぞ」
「ありがとう!」
ロキは温かな笑顔を残し、淡い水色の光になって消えて行った。
「……はっ!?」
「昴さま、いかがされました?」
「え? あ、うん。何でもないよ」
気付くと、昴は何事も無かったかのように、車内に座っていた。
古川からロキの気配はしないし、村山は運転中だ。
だが昴は、確かに未来への扉が開けたと感じていた。
そして、それは彼自身が、その手で開けたものだった。
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