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あおいのコンプレックス

「あ……あ、ん……っ」 (嘘、ちょっと待って……!?) あおいは今の状況に混乱していた。 勝手に漏れる吐息。止めようとしても、止まらない。 「は、ぁ……っ、ん、……っ」 光貴の唇が、ゆっくりと肌を辿っていく。 首筋に、鎖骨に、胸元に――ちゅ、と小さな音を立てながら触れるたび、 身体の奥でぽうっと灯がともるように熱が高まっていった。 ただ触れられているだけなのに。 それだけのことで、こんなに身体が反応してしまうなんて――初めてだった。 「あっ、ん……っ!」 「……ここ、気持ちいい?」 「……うん……好き……気持ちいいっ」 気がつけば、光貴はあおいの胸元に顔を埋めていた。 ちゅぱっ、と濡れた音とともに、敏感なところを丸く鋭い舌先で突かれるたび、 あおいの身体はビクンと跳ねた。 まだ始まったばかりなのにどこもかしこも気持ちが良い。 好きな人に愛されているという実感が、あおいの感度をおかしくしていたのかもしれなかった。 「これ、解いてもいいよね?」 バスローブはすでに、光貴からの愛撫でほとんど脱げかけていた。 「ん……っ、あ、ちょっと待って……っ」 あおいの言葉を聞きながらも、光貴はそっとローブの紐に手をかける。 しゅるり、と柔らかな音を立てて、それが解かれた。 「は、ぁ……っ、ごめんなさい、興奮しちゃって……」 「……あおいさんって」 「……あんまり見ちゃいやです……」 光貴は思わず息を呑んだ。 バスローブの隙間から現れたのは、あおいの中性的で可憐な見た目からは想像もできない、太く立派なペニスだった。 先端からは、とろりと透明な雫が垂れている。 光を受けて艶やかに濡れているそれは、あまりにも生々しく、存在感を放っていた。 「……なんていうか、すごく、立派だね」 圧倒されて声が裏返りそうになるのを抑えて、やっとのことで言葉を繋げる。 しかしその言葉にあおいの表情がふっと陰った。 「……気持ち悪くないですか」 「えっ」 目を逸らし、唇をきゅっと噛みしめたままあおいが続ける。 「……こんな、悪魔みたいなモノがぶら下がってるなんて、ほんと嫌になるんです……っ」 声はかすかに震えていた。  唐突な言葉に戸惑った光貴だったが、あおいの性的嗜好を思い出して合点がいった。 (そうだ。あおいさんの美的感覚は、ダビデ像なんだ) 高校の美術の授業で聞いた話をふと思い出す。古代ギリシャでは、大きなペニスは「愚かさ」や「下品さ」の象徴とされていて、むしろ小さいペニスのほうが知的で理想とされた――確か、そんな話だった。 それを聞いて「現代も同じ価値だったらよかったのにな」とぼんやり思っていたことが思い出された。 高貴にとっては喉から手が出そうなくらい羨ましいことも、あおいにとっては深いコンプレックスだったのだろう。 「……ちょっと、びっくりはしたけど」 光貴は、刺激しないようにゆっくりと言葉を選んだ。 「俺、めちゃくちゃ興奮してるよ」 「……え?」 意外すぎる返答に、あおいが顔を上げる。目が潤んでいて、不安そうだ。 光貴は柔らかく微笑み、静かに続けた。 「だって綺麗なあおいさんに、こんなにも男らしいペニスがついてるなんて。ギャップっていうか……もう、反則でしょ」 視線が自然とあおいの下半身へと落ちる。 「なのに、お尻で感じちゃうなんて……そんなの、正直めちゃくちゃそそる」 「や、やめてください……っ」 羞恥を煽るような言葉に耐えきれず、あおいは身を縮めて目を伏せた。 耳まで真っ赤になっている。 「気持ち悪くないんですか、ほんとに……?」 震える声に、光貴は真っ直ぐ答えた。 「そんなこと思わない。むしろ、美しいって思ってる」 それは飾らない、嘘のない言葉だった。 「俺に言ってくれたよね。自分を卑下しないでって」 光貴はそっと、あおいの足元に視線を戻した。 羞恥と高ぶりを纏って勃ち上がったペニスに手を伸ばし――そっと添える。 「あっ、光貴さ……っ!だめ……!」 「俺、初めて他人のを触るから、うまくできないかもしれないけど――」 光貴は、あおいの目を見つめながら微笑んだ。 「……あおいさんのこと、愛させて?」 そう言って、光貴の指が、あおいの熱をそっと包み込んだ。
潤んでいて、ぴくぴくと脈打っていて、触れた瞬間にこぼれた熱が指先に絡まる。 「あっ……ぅ、っ……!」 あおいの腰が小さく跳ねる。 「……すごい。めっちゃ、ビクビクしてる」 思わず漏れた言葉は、どこか無邪気で、興味を隠しきれていない。
自分とはまるで違う感触――
光貴は、まるでおもちゃを与えられた子どものように、
その熱を手の中で確かめながら、目を輝かせていた。 「……あおいさんのこと、もっと気持ちよくしてあげたいから」 光貴が熱っぽい視線を向けあおいに問う。 「……どこが好きか、教えてくれない?」 「えっ……そんなの……っ、あんっ!先っぽグリグリ、好きぃ……っ」 「へぇ。先っぽ、好きなんだ……」 光貴の声が、ひどく興奮したように揺れる。 「じゃあ……ちゃんと触るね……キスも、してもいい?」 あおいが返事をするより早く、
光貴の顔がすっと近づく。 「えっ、まっ……そんな激しくしちゃ……っ!んっ!」 あおいの返答を聞かぬ間に光貴は愛撫を止めることなく唇をやや強引に合わせた。 頭の中の酸素が足りなくなって頭がぼうっとしてくる。 舌を絡めるリズムに合わせて先端のくびれに指を回して強く擦り、先端は親指の腹を使って細かく擦る。 「あっ、あ……っ、だめ、キちゃうからっ!」 身体の中から迫り上がる感覚に焦って光貴の体を離そうとするがびくともしない。 「ねぇ、ってば!あっ!イクッ、ん、んあぁ……!」 あおいがひときわ高く甘い声を上げた。
幾度となく喘ぎながら、震える腰を浮かせて、
光貴の手の中で、甘く果てる。 とろりとした体液が光貴の指を濡らし、あおいの太ももに伝っていった。 「……は、ぁっ……」 射精の余韻に包まれたまま、
あおいは全身の力を抜いて、気だるげにベッドに沈み込んだ。 頬は上気し、まぶたはとろんと半分だけ開かれている。
 その姿があまりにも無防備で、愛しくて―― 光貴は、たまらなくなった。 「……あおいさん、本当に、綺麗……」 そうつぶやきながら、彼の髪をやさしく撫でる。 そして、頬に、額に、まつ毛のあたりに―― ちゅ、ちゅ、と静かにキスの雨を降らせる。 (……こんなはずじゃ、なかったのに) 熱の余韻の中で、少しずつ意識が戻ってくる。
乱れた呼吸を整えながら、あおいは思った。 本当は――
まだ誰にも汚されず性行為に不慣れな光貴を自分が優しく導いてあげようと思っていたのに。 結果は、どうだ。 気づけば、自分のほうがぐずぐずにされていた。コンプレックスごと包まれて、甘やかされて、すべてを手放して、ただ気持ちよさに溺れていた。 (……なんかちょっと、くやしい) そう思った瞬間、まだ火照る身体をゆっくり起こした。 「あおいさん?」 あおいは何も言わず、引き寄せられるように光貴の脚のあいだへ身を寄せた。 その動きに、光貴が目を丸くする。 「あっ、ちょっと……っ」 声にならない声が漏れた。 光貴の腰が、反射的に逃げるように震える。 そんな余裕のない光貴にクスッと笑う。 そして長い髪を、指先でふわりと耳にかけながら―― あおいは光貴を見上げた。 「……光貴さんにも、気持ちよくなってもらわなきゃ。ね?」

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