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担当医

 荷物の整理をして、部屋に備え付けられてあるテレビを点ける。  ベッドに腰かけて、意味もなくぼんやりとそれを眺めていると、部屋の扉がノックされた。  返事をすれば鍵が空いた音がして、スライド式の扉を開けた久我先生が病室に入ってくる。 「お、もう片付け終わったんですか?」 「ぁ、は、はい」 「早いですね。私は片付けが得意じゃなくて、いつも後回しにしてしまうんですよね」  ハハハ、と笑った彼はベッドの傍まで来る。相変わらず柔らかい笑みを浮かべたままだ。 「担当医について、ですが……候補を三人に絞りました」 「こ、候補?」 「はい。神木さんの病状やお話した感じから、合うだろうなと思った医師たちです。ちなみに……私もその中の一人です!」 「ゎ……」  久我先生がいる──思わず、小さな声が漏れた。  だって、ずっと診察してくれていた先生だ。改めて人間関係を構築する手間は省けるし、この先生の穏やかさは既に知っている。 「あと二人の医師についてですが、時間を見て挨拶に来ますので、少し話してみてください。……あ、緊張して話せなかったり、なんとなく合わないなって感じることもあると思います。そういう時は遠慮無くお伝えください。本人に言いにくければ看護師にでも構いませんからね」 「あ……あの……」 「はい。どうしました?」  ニコニコ。優しい笑顔に少し胸が詰まるような感じがする。 「ぅ、あ、あの……く、久我先生が、いい、です」 「……え、本当に?」 「あ、だ、だって、知ってる、先生……」 「ああ、そうですよね。知っている人の方が安心できますよね」  あと二人の先生については、会ったこともないし、そもそも名前すら知らない。  また初めて話す緊張感を味わうなら、ずっと久我先生がいい。 「では、私が神木さんの担当医ということで……。改めまして、久我圭吾です。無理をせずに、神木さんのペースで進んでいきましょう。嫌なことは遠慮せずにそう言ってください。傷つけるようなことはしません。約束します」 「っ、か、神木、由良です。よろしく、お願いします」  頭を下げようとして、それより先に差し出された右手。  じっ……とその大きな手を見つめていると、ふふっと微笑んだ先生に「手を」と言われ、そっと右手を差し出す。  きゅっと握られると、彼の手の温かさで自分の手がどれほど冷たいのかがわかった。 「こちらこそ、よろしくお願いします」  優しい重低音に頭がじんわりと溶けたような感覚がする。  これから始まる治療生活に、緊張しながら、そっと右手を握った。

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