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カウンセリング 2

「さて、じゃあ早速だけれど……神木さんの子どもの頃の話を聞かせてくれるかな」 「こども……」 「どんなことでもかまわないよ。例えば──学校は好きだった?」  先生の質問に肩がビクッと震える。  学校……あれは、好きじゃない。  みんな、遠巻きにこちらを見ては『変なやつ』って言うから。  頑張ったけど、上手くできなかった。  両親が優しかったのは小学一年生の頃まで。  それこそ、熱を出した時にプリンを買ってきてくれたのも、その頃が最後だった気がする。  何がきっかけかは知らないが、両親の仲が急激に悪くなった。  それと同時に、自分を見る両親の目が怖くなったのを覚えている。  学校から帰ってきて母に話しかければ「うるさい」と怒られた。  それ以来、スムーズに声が出せなくなった。    毎日のように響く大声。  皿が割れる鋭い音。手首を掴まれる感触。 「ちゃんと、話せって、言われて……。でも、何を言えば、いいのかも……わからない……」  相変わらず指先が冷たい。  手を握って、開いてを繰り返すけれど、まるで氷のように冷えていた。 「施設に預けられて、でも、その時にはもう、は、話す、ことも、怖くて……だから、結局、馴染めないで、いじめられ、ちゃって」 「……神木さん」 「ま、毎日、怖かった……。抜け出せない、地獄、みたいな……。でも、行く場所も、なくて」  思い出すと呼吸が浅くなる。  少し苦しくて、それを紛らすように咳払いをひとつ。 「それでも、頑張ってたんですね」 「っ、が、頑張って……でも、大人になっても、だめで、社会に出てからは……何とか生きてきた、感じで……」  高校を卒業し、何とかみつけた就職先。  ここには誰もいないし、みんな社会人だから、いじめられることも無いだろうと思っていたのだけれど、まあ現実は甘くない。 「や、やっぱり、こんなんだから、気持ち悪いねって、言ってるの聞こえちゃって……」 「……」 「でも、一人だけ……優しくしてくれた人がいたんです」  ふと、頭に浮かんだ人の顔。  自分の話を嫌がらずに聞いてくれて、何かがあった時間に入って問題を解決してくれた。 「その人と話すと、胸がぎゅってなって、変でした。自分でもおかしいって思ったけど、でも……その人と一緒にいる時だけ、普通でいられるというか……」  だから──その人とずっと一緒にいたいと、思ってしまった。 「一緒に、いたいって……言ってしまったんです」 「……そうですか」 「そしたら……ふふ。……その人にも、気持ち悪いって、言われちゃった……」  急激に体温が奪われていく。  寒い。腕を摩るけれどあたたかさが戻ってこない。 「佐伯、毛布を掛けてあげて」 「はい」  佐伯さんが、ふわりと毛布を肩にかけてくれた。けれど、まるで意味をなさなかった。  指先から腕、胸の奥、足のつま先まで、全部が冷たくて、硬くて、まるで氷に閉じ込められたみたいだった。

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