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カウンセリング 4
◇
声をかけられて目を覚ますと、そこにはもう佐伯さんしか居なかった。
初日であそこまで話せたことを褒められた。でも、少し困惑してしまった。
あまり自分が何を話したのか、ちゃんとは覚えていなかったからだ。
「先生から話があったと思いますが、明日からはオキシトシン誘導法が始まります」
「ぁ……」
「初日は、さっき久我先生がしていたように軽く体に触れるだけです。まずは触れられることに慣れていただきたいので。何も恥ずかしいことはありませんよ」
「……」
病室に戻りベッドに座って明日の予定を聞く。
別に、いやなことをされるわけじゃない。そんなの、わかってるのに、体に触れられるというたったそれだけのことで、不安になってしまう。
「佐伯さん……」
「はい」
「……本当に、それで、治るんでしょうか」
そう問いかけると、彼は眉を八の字にして小さく微笑んだ。
「不安ですよね。ただ、この治療法には効果が期待できます。これを繰り返して完治した患者さんは沢山いますよ」
「……そうですか」
きゅっと手を握る。
すると佐伯さんは背中を屈め、「失礼します」と言って手を握ってきた。
驚いて小さく震えてしまったけれど、彼の手がじんわりとあたたかくてホッと息を吐く。
「こうして温めると、安心しませんか」
「……た、たぶん」
「これを繰り返していきます。……ゆくゆくは、こうして触れるだけではなく、体の芯からぬくもりを取り戻していくような、そんな施術になりますが、まだ少し先の話です。神木さんのペースで進めていきます。それに神木さんが嫌だと思うことはしませんからね」
手が離れると、冷たさが戻った。
「今日は自由に過ごしてくださいね。病室を出る場合はカードキーを忘れないように。他の患者さんとお話をしたりするのも構いませんが、ルールだけは守ってくださいね」
うん、と一つ頷けば彼は「また来ますね」と言って部屋を出て行った。
一人になってすぐ、ベッドに寝転がり小さく丸まる。
他の患者と話をするなんて、今はまだ考えられなかった。
だって、どんな人たちがいるのかも分からない。また傷つくかもしれないのに、自分からそんなことを望むはずがない。
「……さむい」
丸くなってもあたたまらない。
ふと、頭を撫でた久我先生の手を思い出した。
そうすればじんわりと胸に広がった違和感。けれど決して嫌なものではないそれを感じられたことが、今は少し誇らしかった。
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