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2回目と安らぎと 1
久我先生が言っていた通り、昨日と同じくらいの時間に佐伯さんがやって来た。
「おはようございます!」
「ぁ、お、おはよう、ございます」
「お、今日はご飯食べれてますね。美味しかったですか?」
「……たぶん?」
「んー、ならオッケーです!」
親指と人差し指で丸を作った佐伯さんに、思わずフッと笑ってしまう。
明るい人だ。優しくて、穏やかで。
「さ、佐伯さんは、ご飯、食べましたか」
「食べましたよ! 僕ね、朝食は悩まなくていいように毎日同じもの食べてるんですけどね、そろそろ飽きてきちゃったんですよねぇ」
「……何を、食べてるの……?」
「朝はパン派なので、食パンに目玉焼き乗せて、チーズとマヨネーズかけてます!」
朝からハイカロリーだ。
だからこんなにも彼は元気なのかな。ぼんやりと佐伯さんを見つめていると、優しく微笑まれる。
「久我先生から、今日の治療について神木さんの方から『やる』と仰っていただいたと聞きました。今のところ、お気持ちに変わりはありませんか?」
「ぁ、は、はい。無い、です」
「ありがとうございます。じゃあ、検診衣ここに置いときますね。何かあればナースコール押してください。時間になったら迎えに来ますから、ゆっくりしてて大丈夫ですよ」
お茶を飲んでホッと息を吐く。
もう少ししたら、服を着替えて、準備をしよう。
「……うん。今日は、上手くできそう」
静かな言葉を口にして、少しだけ驚いたのは、昨日よりも少しだけ、前向きになれている自分がいたからだった。
◇
処置室に移動すると、早速昨日と同じように処置台に寝かされて腰周りを固定され胸に機械を着けられた。
緊張はしているけれど、昨日ほどではなくて、笑顔の久我先生が入ってきて佐伯さんに指示を出している間も、心臓の動きは穏やかだった。
「──じゃあ、始めますね。昨日と同じ、触って軽くマッサージしていくよ。嫌な感じがあったり、痛かったり、怖かったら教えてね」
「っ、はい」
あたたかい手に包まれる右手。
次第に手のひらのマッサージが始まって、気持ちよさに小さく息が漏れる。
佐伯さんも昨日と同様に足元に回ってマッサージが始まると、血行を促進されてじんわりとあたたかさが広がった。
「怖くない? 大丈夫かな?」
「ぁ……は、はい」
「じゃあ少しずつ範囲を広げるね。今度は腕と脹脛に触るよ」
先生の言った通り触れられる場所がかわり、そこも優しく揉まれていく。
気持ちがいい。ついうっとりして眠気までもが生まれていく。
「痛くないかな」
「……だいじょうぶ」
「よかった。……眠たくなってきた?」
「ん……はい……」
彼らの手は徐々に上がってきて、今度は二の腕と太腿に触れられた。
それでも嫌な感じはしなかった。むしろ足と手があたたまって、いつもよりずっと冷たさを感じない。
「うんうん。いい感じだね」
「は……」
「神木さん、お腹に触ってもいいかな」
「……ん、はい……」
毛布を捲られ、あたたかい手がお腹に触れる。
じんわりじんわり広がる熱が、段々と思考力を奪っていく。
「すごく頑張ってるね。次は頭に触るよ」
「はぁ……」
お腹にあった久我先生の手のひらが離れ、代わりに佐伯さんの手が触れる。
そうして先生は頭の方に回ると、優しく髪に触れて、そっと、まるで子供にするかのように頭を撫でてくる。
「神木さんはすごいね。昨日の分も合わせて今日の目標も達成しそうだよ」
「ん……もくひょう……?」
「ああ。一応患者さんに合わせた治療進行目標があるんだ。また見せるね」
「……ん」
頭までマッサージをされて、緊張なんて完全に解け、脱力してしまっている。
「気持ちいいね」
「……は、い」
返事も、ワンテンポ遅れてしまうけれど、誰にも笑われない。
遅いと叱られることもない。
ここは、どんなとこよりも安心できる、安全な場所なのだと、理解ができた。
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