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2回目と安らぎと 2
治療が終わっても、なかなか脱力から戻って来れなかった。
佐伯さんが車椅子を持ってきて、そこに座らされる。
「神木さーん。気分は悪くないですか?」
「はい……」
返事をすれば、目の前にしゃがんだ久我先生と目が合った。
「よく頑張りましたね。お部屋に戻ったら休んでくださいね。夕方頃にまた伺うので、その時にさっき話した目標についても説明しますからね」
「……ん」
「──じゃあ、佐伯、よろしく」
「はい。神木さん、お部屋に戻りますね」
体があたたかい。
車椅子が動く。部屋に戻るまでの間に眠ってしまいそうだ。
「……ねちゃい、そう……」
「お、もう少しでお部屋つきますからね」
「……こんなに、眠たいの、変……」
「そんなことないですよ。治療の後は眠たかったり、体がズーンと重たくと感じる患者さんが多いですからね」
車椅子の振動が心地よくて、眠気が加速する。
ふと見えた廊下の照明が、眩しくて煩わしかった。
◇
いつの間に病室に戻ってきて、いつの間に眠ってしまったのか覚えていない。
目を開けると日が傾いて空が暗くなってきていた。
ギョッとして起き上がり時計を見れば午後四時。
すごく長い間眠ってしまっていたようだ。
なぜだか気持ちがあせってしまい、ベッドから降りるとカードキーを持って廊下に飛び出す。
何かがあるわけではないのに、辺りを見渡して、少し先にいた看護師さんや医師に患者さんが不思議そうにこちらを見ていた。
「──あの患者さんの担当医は?」
「確認して、連絡します」
遠くの声が一瞬聞こえて、背筋が凍る。
知らない人の視線が怖い。けれどなにもできずにそのまま立ちつくし、動けないでいると「神木さーん」と聞きなれた佐伯さんの声が聞こえてホッとする。
「目が覚めたんですね。体調はどうですか?」
「ぁ……さ、佐伯、さん」
「どうしました?」
「ぉ、起きたら、こんな、時間で」
「ああ、ビックリしちゃったんですね。少し寝るつもりがすごく寝ちゃってた時って驚きますよね。──失礼しますね」
背中を撫でられて、ホッとする。
さあ、病室に戻ろう。そう思って顔を上げると廊下の向こうに久我先生の姿が見えた。
「ぁ、先生……」
「本当ですね。ここで待ちますか?」
「ぅ、はい。待つ……ぁ、あと、散歩、しなきゃ……夜、寝れなくなっちゃう……」
傍に来た久我先生は柔らかく微笑んでいて、それを見るだけで安心できた。
「神木さん、待っててくれたの?」
「ぁ……ち、ちが、あせ、って……」
「目が覚めたらこの時間だったからビックリしちゃったみたいです」
「ああ、なるほどね。よく休めましたか?」
「ゃ、やすみ、すぎちゃって、」
「ふふ。大丈夫ですよ。治療を頑張った証拠です」
穏やかな笑みにつられるように、口角が少し上がる。
「さて、部屋に戻る? それとも、せっかく部屋を出たから少し散歩しますか?」
「散歩……」
「うん。じゃあ私も一緒に散歩しようかな。隣を歩いてもいいですか?」
「ぁ、も、もちろん」
「ありがとう」
そうして久我先生と佐伯さんと一緒に、病棟内を歩くことになった。
足を踏み出せば先程は感じなかったフワッとした感覚がして、思わず隣にいた久我先生の腕を咄嗟に掴んでしまう。
「お、足元ふらつきますか?」
「ご、ごめんなさい……大丈夫……」
「いいんですよ。そのまま掴んでてくださいね」
佐伯さんと先生に挟まれて、廊下を歩く。
たわいもない会話をしながら、ゆっくりと。
「あと一周したらお部屋戻りましょうか」
「ん、はい」
「今日は沢山頑張りましたね。無理はしていませんか?」
「大丈夫です」
なんだか、いつもより体が軽い気がする。
最後、病室を一周歩いて、病室に戻ると、久我先生も佐伯さんも優しく褒めてくれた。
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