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深くゆっくり 1※

 翌朝。  昨日休みをもらったおかげで、心も身体も少し軽くなっていた。あれほど気になっていた違和感も、もう残っていない。  病室で朝ご飯を待っていると、扉がノックされ、「おはようございます」と声と共に、久我先生が入ってきた。 「神木さん、昨日はよく休めましたか」 「はい、ぐっすり眠れました」 「それは良かった。今日なんですが、神木さんさえよければ、この前と同じ内容で治療をできればと思っています。……どうでしょう?」 「あ……はい。うん、大丈夫です」  口ではそう答えたけれど、気持ちのどこかでわずかな揺らぎが残っていたのだろう。先生は、すぐにそれを察したように穏やかに問いかけてきた。 「不安なことがありますか?」  小さく首を振る。  不安というよりは、ただ、まだ気恥ずかしさがつきまとっていて。 「不安は……なくて。ただ、やっぱりちょっと、恥ずかしいので」 「そうですよね。お薬の量を調整しましょうか。一度弱めてみましたけど、慣れるまでは元の量に戻してみてもいいと思います」 「……う、」 「それに治療中はタオルでお尻のあたりを隠しておくようにしましょう。最初の具合を確認するときだけは見せてもらう必要がありますが、それが終われば隠して大丈夫です」  こくりと頷く。  一度見られてしまったのだから今さらだけれど、タオル一枚あるだけで気持ちはずいぶんと違う。 「では今日はその方法でやってみましょう。問題なさそうなら、しばらくはそれで進めていきます」 「はい。……すみません、色々と」 「謝ることじゃないですよ。じゃあお薬を処方しておきますので、少ししたら佐伯が持ってくると思います。それを飲んだら迎えが来ますから、ここで待っていてくださいね」 「はい」  先生は柔らかな笑みを残して、部屋を出て行った。  二十分もすると、朝食のトレイと一緒に佐伯さんが入ってくる。 「また迎えに来ますので、お薬も忘れず全部飲んじゃってくださいね!」  彼はそう言って、にこっと笑い、「また来まーす」と軽やかに去っていった。  温かいパンを口に運ぶと、小麦の香りがふんわり広がって、胸の奥が少し安らぐ。  食後に薬を飲み、ベッドに横になる。しばらくして、あの独特な感覚が押し寄せてきた。眠気のような、夢と現実の境目に落ちていくような――自分がどこにいるのかさえ曖昧になる。 「失礼しまーす。神木さーん、お迎えに来ましたよー!」  佐伯さんの声は耳に届いたのに、返事をすることはできなかった。 「うんうん、お薬効いてますねぇ。ゆっくり体起こしまーす」  佐伯さんに支えられて車椅子に移動し、少ししてまた別のベッドに横たえられる。  服を脱がされ、ぺたりと冷たい器具が身体に貼られ、お尻だけを高く突き出すようにうつ伏せにさせられた。毛布が掛けられると、かえってその部分だけが際立って意識してしまう。 「神木さーん、ごめんなさい、手足を台に固定させてもらいますね」 「……?」  カチリ、と音がして手足が拘束された瞬間、一瞬だけ胸がざわりと騒いだ。――こわい。  でも、その不安は背中をやさしく撫でられるうちに、すぐにほどけていった。 「──佐伯、薬の効き具合は?」 「良好です」 「良かった。不安そうにはしていなかった?」 「はい」 「オッケー。じゃあ始めましょうか」  意識がふわふわと遠のいていく。もう寝てしまいそうになったところで、背中をトントンと叩かれた。 「神木さん、治療を始めますね。指入れますよ」 「……? うん……」  毛布がめくられ、冷たい空気が肌に触れる。  次の瞬間、ぬるりとした感触が後孔に当たり、そのまま中へと押し入ってきた。  がたん、と固定された台がわずかに揺れ、小さく声を漏らす。 「う゛……っ」 「大丈夫、痛くはないでしょう?」 「……っ」  それはゆっくりと奥へと進み、内壁をなぞるようにして優しく動き始めた。 「ぁ……ぁー……」 「神木さん、我慢しなくていいですよ。声、出して」 「ぅ……さえき、さん……」 「はーい。大丈夫。──手、繋ぎましょうか」  差し出された掌に指を絡めると、ふわふわと漂っていた意識が、少しだけ現実へ戻ってきた。  その刹那。 「──あっ……!」  不意に走った快感に、抑えきれず声が零れる。 「ここ、少し重点的に触れていきますね。遠慮なく達して構いませんから」 「ぁ、ぉ……そこ……っ、ぁ、気持ちいいっ」 「うん。とても上手に反応できてますよ。そのまま、気持ちいいのに集中して……」  コリ、コリと、焦らすように、しかし的確に弱点を攻められる。  呼吸が荒くなり、体は震えを止められなかった。 「佐伯、手……冷たくなってない?」 「大丈夫です。むしろ温かいくらいですよ」 「そう……よかった。──神木さん、次は少し器具を使いますね」  名前を呼ばれた。なんだろう。けれど、久我先生のことだ。きっと大丈夫。  後孔から指が抜け、ほっと息をついたのも束の間。先ほどより太い何かが、ゆっくりと押し入ってきた。 「あ……あ、うぅっ……」 「力を抜いて……そう、いいですよ。深呼吸して。──痛みはありますか?」 「ぅ……」  圧迫感に、思わず眉を寄せる。胸の奥が苦しくなる。 「な、に……これ……」 「細めのディルドです。今からこれで内部を刺激していきますね。ゆっくりだから安心して」  ぐっと奥まで入れられたあと、今度はゆるやかに抜かれていく。  粘膜を撫でながら全体を擦りあげられるような感覚に、体は勝手にビクンと跳ねてしまった。

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