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4-1-接近
次の日、丞は学校を休んだ。
次の日も、土日を挟んで、週明けも。
「丞君、どーしたんかね。こんなに休むなんて初めてじゃ?」
「小学校の頃なんか六年間皆勤賞だったもんな」
教室どころか学校中が丞のことを心配していた。
「体調不良らしいけど、このままゴールデンウィークまで休んだりして」
「いや、でもさ、思い返してみれば様子変だったよねー」
「ん? どゆこと、白洲?」
「なんかピリピリしてたじゃん! ちょっと怖かったじゃん!?」
「そーだっけ?」
窓際で白洲や金森といった、普段から丞とよく一緒にいる混種のグループが話しているのを見、夕汰は顔を曇らせる。
「白洲の言ってること、ちょっとわかるかも」
そばにいた友達の芝恵の言葉には胸をざわつかせた。
「タマタマ縮んじゃったの、よく覚えてるもん。思い出してもキュウってなる~」
「……」
「ところでさ、ゆーたん」
「……白洲くんと同じ呼び方するようになったよね、芝恵くん」
「ゆーたくん、より、ゆーたんの方が呼びやすいことに気づいたのだ~」
床に座り込み、夕汰の机にしがみついていた小柄な芝恵は自分の首筋をトントンと指差してみせた。
「まだ絆創膏してる。なかなか治んないね~」
「……うん」
首筋には丞の噛み痕がくっきりと残されていた。
(あの日のことは誰にも言ってない)
お父さんにも、おばあちゃんにも、友達にも。
(おれがもっと強かったら、御社くんのこと、止められたのに)
……まぁ、多分、キスされて噛みつかれただけだとは思うけど。
……噛みつかれた後、気を失って、それから全然覚えていないんだけど。
(それ以上のことは……されてないよね?)
噛み痕があったのは首筋だけ、念のため浴室で体中をチェックしてみたが、それらしい痕は残されていなかった。
(さ、さすがに……それ以上のことをされていたら自ずとわかるのでは?)
清く正しい完全無欠なヒーローのことだ、きっと正気を取り戻し、自宅まで運んでくれたに違いない。
休んでいるのは発情期のせいだろう。
発情期から脱したら学校へ戻ってくるはず……。
(でも、御社くん、どうしてあの神社にいたんだろう)
これまで近所で丞に会ったことなど一度もなかった夕汰は疑問に思うのだ。
御社一族が暮らす邸宅は郊外にある鏡大池(かがみおおいけ)のそばで、かなり離れているという。
放課後にぶらりと立ち寄る用事もなさそうな住宅街のそば、あのもの寂しい神社へ、一人で何をしにきていたのか――。
「草ノ間くん、目を開けたままお昼寝中ですか?」
夕汰はやらかした、気がつけば始まっていた授業、教師に指名されているのに考え事に集中していてノーリアクション、よってクラスメートの失笑を買った。
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