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次の日も丞は学校に来なかった。 時に彼の噛み痕が疼いて、やはり、夕汰は朝から上の空で授業に集中できずにいた。 「最近のゆーたんは前にもましてうっかりしてるね~」 「やっぱり恋の季節かなー」 友達の芝恵や白洲に茶化される始末だった。 「次、体育だよ~。着替えるの忘れないようにね~」 「また顔面にボール直撃されないようにねー」 誰にも言えない秘密の放課後の件で頭がいっぱいな夕汰は、前後ろ逆に体操着の半袖シャツを着て体育の授業に臨んだ。 (いや、ほんとに、いくら鈍いからって、さすがに) あの日、意識を失っていた間に何があったのか、未だにはっきりしていない。 キス以上のことをされたのか、されていないのか、事実を知りたい夕汰は気もそぞろな日々を過ごしていた。 (シロツメさんって誰だろう) 校庭で行われている体育の授業中、別のチームがサッカーの練習試合に励んでいる傍ら、コート脇に突っ立った夕汰は顔を伏せる。 (その人にも、御社くんにも、申し訳ないというか) あんな風に名前を呼んで「好き」って言うくらいだ。 きっと御社くんにとって誰よりも一番大切な人――。 「――危ない、ゆーたん!!」 それはまるでデジャヴであった。 クラスメートの蹴ったサッカーボールが軌道を外れてコートの外へ。 棒立ちになっていた夕汰の方へ勢いよく飛んできた。 【ひと】よりも鈍臭くて【化けもの】の血が多少なりとも流れている混種とは思えないうっかり屋さんの夕汰は、自分目掛けて突っ込んでくるボールを他人事のようにぼんやり眺めていた。 (あ。これ、やばいのでは――) やっと危機感がはたらいたものの時すでに遅し、バレーボールに次いでサッカーボールまで顔面直撃する羽目に……。 いや、直撃する羽目には陥らなかった。 夕汰のすぐそばに突然現れた人物がボールをガードしてくれたおかげで二度目の顔面直撃は免れた。 「ぷっ……ぷぅ……?」 足元に転がったボール。 夕汰は忙しげに瞬きする。 自分の頭を守るように片腕で抱き寄せ、翳した学生鞄でボールを弾き返してくれた相手をおっかなびっくり見上げた。 「御社くん」 黒の詰襟を規則正しく着用した丞がそこにいた。 「御社君だ!」 「やっと学校来れたんだね!」 「体調、もう大丈夫なんだ!?」 「おかえり!!」 試合中だったクラスメートまでもがやってきて丞をわっと取り囲む。 登校してきたばかりの島一番の人気者にクラスメートらは揃って顔を輝かせていた。 一方、夕汰はというと。 まだ丞の懐に守られたままで息が止まりそうになっていた。 (み、御社くんだ、御社くんがいる) 学校、来れるようになったんだ、よかった。 でも、まさか、おれのこと守ってくれるなんて。 (あれか、あんまりにも鈍臭くて目に余ったとか) 「さっきの、すごかった! ガチでヒーロー!」 「ゆーたんもヒロインみたいじゃんねー」 白洲に言われて夕汰はあたふたと丞から離れようとした。 「耳は出ないんだな」 丞の片腕にぐっと力がこもって、離れることができず、夕汰は目を白黒させる。 自分だけをまじまじと見つめてくる彼にどう対応したらいいのか、リアクションに困った。 「みんな、心配かけて悪かった」 ようやく自分から離れた丞が皆と向き合うと、ほっとした反面、心細さを覚えた。 サッカーボールの衝撃から守ってくれた彼の、あったかい懐の意外な心地よさに肌身があっという間に熱せられていた。 (いやいや、心細くなんかなるんじゃない、どうかしてるぞ、おれ) 「今から職員室に行ってきます。邪魔をしてすみませんでした、先生」 体育教師に頭を下げ、校舎へ向かおうとした丞に夕汰は駆け寄る。 「あの、御社くん――」 ボール直撃回避のお礼を言おうとしたら、不意に屈んだ彼に「昼休み、屋上に来てくれるか」と素早く耳打ちされて夕汰はピシリとかたまる。 前と変わらず背筋を真っ直ぐに伸ばして校舎へ向かう、同じく体育の授業中であった下級生に熱視線を送られているクラスメートを遠慮がちに見送った……。

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