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「ねぇ、見て! 御社先輩だ!」 「校門の前に立って……あれって誰か待ってるかんじ?」 「新緑と御社先輩の組み合わせ、最強過ぎる」 校門へと続く緩やかな坂道の途中だった。 前を歩いていた下級生の会話が聞こえ、常に目線が下に行きがちな夕汰は恐る恐る顔を上げる。 (うわ、ほんとだ、いる……!!) まるで天然記念物でも発見したような驚きぶりで、坂道を登りきったところにある校門の前、すっと立つ丞を目の当たりにして夕汰は瞠目した。 体の線に沿った黒の詰襟を凛々しく着こなす秀逸なルックスはクラスメートだろうと一向に見飽きない。 葉桜の元、日の光と葉陰のせめぎ合う姿はいつにもまして眩かった。 「やばい、五月の神様みたい」 「まだ四月だけどな」 はしゃぐ下級生グループの後ろで、内心、確かに五月の化身みたいだと同意していた夕汰だが。 「えっえっえっ、こっち来る!?」 校門の前から移動し、登校する生徒の流れとは逆に坂道を下りてくる丞に心臓が止まりそうになった。 「夕汰」 真正面までやってきた彼に名前を呼ばれると口から心臓が飛び出そうになった。 「おはよう」 「っ……おはっ……おはよう、御社くん……」 前にいた下級生グループはもちろん、登校中の生徒に注目される中、夕汰はしどろもどろに返事をする。 「昨日俺が言ったこと、考えてくれただろうか」 朝一番、嫁に来い的発言に真っ向から触れられて夕汰は閉口した。 歩行を促され、ぎくしゃくとした足取りで丞と共に歩き出す。 四方から浴びる視線に耐えかねて俯けば。 「夕汰はよく下を向いているな」 「えっ、あっ……うん、そうかも」 「下を見る余り、時々物にぶつかることがある」 (よく見てるなぁ、御社くん……さすが【化けがみ】だぁ……) 【化けもの】は【ひと】と【けもの】をかたどってつくられた、そう言われてる。 唯一の例外が御社くん一族だ。 彼等には【神様】をかたどった部分もあるとか。 (おれのこと苦手なはずなのに癖まで把握してるなんて視野が広いなぁ) 「あ……その、昨日の話だけど、やっぱり無理かな」 「そんなに俺のことが苦手か」 夕汰は目をヒン剥かせる。 (それは御社くんの方なのでは!!??) さすがに言葉にはしなかったが、正直、どの口が言っているのかと面食らっている夕汰に丞は言うのだ。 「二年で同じクラスになって、この四月、夕汰と目が合ったことは滅多になかった」 (それは御社くんがどう考えてもおれのこと苦手にしてたから!? 敢えて見ないようにしてたんです!!!!) 「話しかけてくることも滅多になかった」 (どう見てもおれに苦手意識はたらかせてた御社くんに遠慮してただけ!!!!) 一体、どうリアクションしたらいいのか。 返答に迷った夕汰は隣を歩く丞をチラリと見上げてみた。 「この間の火事のときも、俺と目が合うと、すぐに走って行ってしまっただろう」 「あ……」 「俺は夕汰に何かひどいことをしただろうか」 (ひどいこと、というか) どう考えても、みんなへの態度と、おれへの態度は違っていた。 苛立ちとか、煙たがってるみたいなマイナスの感情が見えた。 (目が合ったとき、御社くんから顔を背けたことだって、あったのに) まさか今までの自分への塩対応を忘れてしまったのかと、ぐるぐる考えあぐねていた夕汰は、前を見据えたままポツリと零した丞の言葉に耳を疑った。 「夕汰の方こそ、ひどいのに」 (おれはやっぱり何か仕出かしちゃったんだろうか) 休み時間の教室、白洲や金森といった混種のクラスメートに囲まれている丞を横目で窺い、夕汰はため息をつく。 『夕汰の方こそ、ひどいのに』 (おれ何したんだろ!?) 丞にとって、ひどいこと。 夕汰にはまるで見当がつかなかった。 そもそも一年は違うクラスだったし、今月同じクラスになったばかりで、直接的な干渉は避けていたから、ひどいことのしようがない……。 (まさか御社くんの塩対応に対するおれの防御行動が塩対応認定された……?) 「ゆーたん、グミ食べる? 新フレーバー」 「……」 「無視ですか~、じゃあやんないもんね~」 友達の芝恵の声も今の夕汰には届かず。 思考はぐるぐる状態、授業の内容もろくに頭に入ってこなかった。 (それとも、あの神社でのこと……?) どこかに連絡するなり人を呼ぶなり、もっと迅速に的確に行動して、彼の発情期に対処していればよかったのか。 頭を抱えたくなった夕汰は代わりに自分の両頬をつねった。 何となく自分を戒めたくなったのだ。 「ゆーたん」 芝恵の驚いたような声にも特に反応せず、自分の机の上一点を凝視し、頬をつねり続けていた夕汰だが。 「ゆ、ゆーたんってば。おい~」 芝恵に真正面から肩を揺さぶられて、はたと我に返った。 (うわぁ!?) 机の真横に丞が立っていた。 いつの間に接近していた彼に度肝を抜かれ、あわあわしていたら、無駄に凛とした佇まいのクラスメートはおもむろに口を開いた。 「昨日俺が言ったこと、考えてくれただろうか」 (それもう朝に回答しました!!!!!!)

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