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「考えてくれたか、夕汰」
夕汰は開いた口が塞がらなかった。
清々しい快晴の朝。
自宅で朝食をとり、父親の春貴より先に家を出てみれば。
「おはよう、夕汰」
門扉のすぐ向こう側に丞が立っていた。
普段通り、ストイックさを漂わせる詰襟をピシッと着用したクラスメート。
歩道を行き交うご近所さんの注目をビシバシ浴びていた。
「丞おぼっちゃんだ」
「草ノ間さんとこのお孫さんとお友達なの?」
丞に惚れ惚れしているご近所さんたちにおざなりに挨拶し、ベージュのセーターにリュックを背負った夕汰は慌ただしげに丞を促す。
「夕汰くん、いってらっしゃ……あらまぁ、丞おぼっちゃん?」
「どうして、こんな朝から、こんなとこに」
道行くご近所さんは目を見張らせ、丞はそつがなく彼等に挨拶し、夕汰はいつにない早足で朝の通学路を突き進んだ。
(朝っぱらから凄まじくてんぱってます!!)
ご近所ゾーンを抜けたところで、ようやく一息つく。
周囲の視線はまだまだ余裕で感じるものの、見知った隣近所で覚える妙な気恥ずかしさは大分薄れた。
「ぷぅぷぅっ……あ!」
そこで夕汰はやっと気がつく。
自宅前から数メートル、ずっと丞の腕を掴んで引っ張っていたことに。
「あわわ……ごめんなさい、丞おぼっちゃん……」
ご近所さんの「おぼっちゃん」呼びが自然とうつってしまった……。
「あ! おはっ、おはようっ、丞おぼっちゃま!」
「夕汰はそう呼ぶ必要ない」
「えっ? はいっ? えっ?」
自分が「おぼっちゃま」呼びしていたことを自覚していない夕汰、丞が家の前にいた衝撃を引き摺りつつ、リュックを背負い直した。
(昨日は校門の前、今日は家の前……明日は家の中にまで入ってくるんじゃあ……)
「御社くん、どうしておれの家に……?」
「答えを聞きにきた」
「えーと、確か昨日答えたよね、おれ……?」
「そんなに俺が苦手なのか」
(堂々巡りだこれ!!!!)
「丞さまだ!!」
「おはようございます!」
ランドセルを背負った小学生にまで挨拶されて丞は「おはよう」と一人ずつ返していた。
最初は彼がそばにいるだけで強張りがちな夕汰であったが、学校の生徒や先程のご近所さんたち、どの島民にも一貫している柔らかな態度を目の当たりにして過度な緊張感は少しずつ薄れつつあった。
(ほんっとう、御社くんは島のみんなから慕われてる)
「……その、おれからしてみたら現実味がなさすぎる話だから」
リュックの取っ手を両手で握り締め、夕汰は、胸の内を正直に丞に打ち明ける。
「御社くんは純血の【化けもの】で、ずっとずっと昔からみんなに慕われてきた一族で、この神渡島の守り神みたいな存在で……おれなんかには遠い遠い存在で……縁がないっていうか」
(そもそも男同士ですし)
しどろもどろながらも精一杯本音を伝え、丞がどう返してくるか、彼のリアクションをじっと待っていた夕汰だが。
「丞でいい」
「えっ?」
「俺のことは名前で呼んでいい」
(おれの話ちゃんと聞いてたかな!!??)
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