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初夜-5
セミダブルサイズのベッドが二つ並べられた広めのツインルーム。備え付けのソファの目の前には全面ガラス張りの窓があり、そこから紺藍に染まりつつある空に覆われた都会の街を一望できる。
部屋の中には、先客がいた。
ソファに腰掛けて寛いでいる明るい髪の女性、鏡の前で化粧直しをしているショートヘアの女性。バルコニーにも1人女性がいる。
皆、20代後半から30代といったところか。服装は下着じゃないかと思うくらい薄着だが、一様に化粧が濃く、派手な印象を受ける。
「あ、やっと来たぁ。外眺めるのも飽きちゃったよ」と、ソファで寛いでいた女性が舌ったらずな喋り方で口を開く。
「ごめんごめん。でも、時間通りでしょ?」
「ほんと、待たせるのが好きだね」と、ショートヘアの女性が呆れたように笑う。
蘭は彼女らをぽかんと見つめる。やがて外にいた女性も中に入ってきて、こちらに近寄ってくる。
「へえ、ちょっと芋っぽいけど…カワイイ子じゃん」
髪を耳に掛けながら、女性が蘭を上目遣いで窺う。キャミソールしか纏っていない白くて柔らかそうな肌が目に飛び込んで、思わず目を逸らす。舐め回されるような視線にどぎまぎしていると、彼女の視線がアゲハに移った。
「もう始めていいの?」
「お好きなタイミングでどうぞ」
アゲハのセリフに、他の2人の女性もこちらに寄ってくる。戸惑いながら思わず後ずさると、アゲハに後ろから制止される。恐る恐る振り向くと、アゲハはにこっと穏やかに笑いかけてきた。
「大丈夫、彼女ら勝手わかってるから。蘭は任せてればいいよ。──行っといで」
アゲハが、蘭の背中を軽く押す。それと同時に女性の1人に腕を掴まれて、そのままベッドに体を投げられた。
アゲハは隣のソファに腰掛け、やっと落ち着ける、とでも言いたげに息を吐いた。
「その子、初めての仕事だから。優しくしてあげてね」
振り向きもせず言うアゲハに、はあいと生返事をして女性たちがベッドに乗り、蘭に群がる。咽せ返るような香水と化粧品の匂い。柔らかい肌、細い指が蘭に触れる。
──何だ、これ。なんで俺、こんなところでたくさんの女の人と。
頭が混乱する。嫌な予感を感じていたことも忘れて、純粋に疑問に思ってしまった。思考がおぼつかない。
碌に声も上げられないまま、蘭の上半身は裸に剥かれてしまった。
ぺたぺたと体に触られて、その度にビクッと反応してしまう。それが可笑しいのか、女性たちがくすくす笑う。
「ひょろひょろだねぇ。私より細かったりして」
「やだぁ。ていうか、かわいー」
「ハタチくらい?名前は?」
息が荒くなって、言葉が出てこない。為されるがまま弄ばれて、恐怖や快感で支配される。
「19歳だって。名前は…スズラン」
簡単な受け答えをすすこともままならない蘭に代わってアゲハが答える。
「えー?わかーい。え、でも待って。合法?」
「18超えてたら大丈夫でしょ」
「そっかぁ。てか、カワイイ名前〜」
1人の女性の手が蘭の下肢に伸びる。蘭はハッとして後ずさった。
「やだ…っ…やめて、ください…!」
ほとんど泣きそうな声で懇願すると、女性が黄色い声を上げた。
「やだ、だって。カワイイ〜」
「でも、ごめんね。──ヤダなんて言われたら、いじめたくなっちゃう」
ベッドの背もたれに追い詰められて逃げ場もなく、抵抗虚しく衣服を剥ぎ取られてしまった。
「ランくん、細っこいけど、結構立派ねぇ」
「やっぱ若いコはすごいね〜」
生理的な反応でゆるゆると勃ち上がり始めたそれに触れられる。堪えたはずの声が漏れ出て、顔が熱くなった。
「じゃ、私から〜」
ずるーい、なんて文句を言う他の女性を差し置き、女性が下着を脱ぎ捨て、蘭の上に無理やり乗ってきた。抵抗もできずに、蘭は犯される。
嫌なのに、怖いのに、ほとんど無意識に腰を動かしてしまう自分が恥ずかしくて、ぽろぽろと涙が溢れる。
「あは…やだ、泣いてる。カワイイ〜」
「恥ずかしい?気持ちいい?」
「わ、わかんない…っ」
問いかけにふるふると首を振る蘭に、女性たちがきゃーと嬉しそうに歓声を上げる。どう見ても経験豊富そうな女性にとって、あどけない青年が乱されていく様子は堪らないんだろう。
「ほんっとかわいい。いいコ連れてきたじゃない、アゲハ」
その言葉に、スマホをいじっていたアゲハが振り向く。
女性に良いようにされて、快感に蕩けてしまいそうな蘭の顔をじっと見つめる。「確かに」アゲハはにっと笑って唇を噛む。
「──めちゃくちゃにしてやりたい顔してる」
アゲハの低い声が体に響いて、全身が甘く痺れた。
蘭はさすがに、自分が騙されたことに気づいていた。内容を碌に確かめなかった蘭にも落ち度があるけれど、抵抗できない状況で体を弄ばれて…こんなの、性暴力に他ならない。
けれど、不思議とアゲハに対する失望や恐怖は感じなかった。そもそも、アゲハの雰囲気からして普通のバイトじゃないことなんて想像に難くなかったし、高級ホテルに連れてこられた時点で性的サービスではないか、というのも薄々勘づいていた。
それに、ホテルに入る直前はアゲハと2人きりだった。振り切ろうと思えばできないこともなかったはず。それでも逃げずに足を踏み入れることを決めたのは蘭の方だ。
だからもう、騙されたとか、体を弄ばれてるとか。そんなことはどうでもよくて。今、自分に向けられている、獲物を狙うような獰猛な視線に、蘭は釘付けになっていた。
アゲハが、自分に興奮してくれているのかもしれない。そう思うと、体が熱く疼いた。
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