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初夜-6

代わるがわる女性に体を回されていく。出るものも出ないくらい、搾り取られていた。 「はぁ…っ…アゲハも混ざるー?好きでしょ?こーいう、な感じ」 女性の1人が蘭の顎を掴んで、バルコニーに出てタバコを吸っていたアゲハの方に顔を見せる。 アゲハはこちらを一瞥して、苦笑しながらひらひらと手を振る。 「俺はいいよ。ていうか、そろそろみんな疲れてない?」 「…は、ぁ…あー…そう言われると、ちょっともういいかも」 「んー、あたしもう良いかな。先シャワー浴びる〜」 「じゃ、次私ー」 アゲハの言葉を皮切りに、女性たちがあっさりと蘭を解放する。息を切らしながら、蘭がベッドに倒れ込んだ。 「汗やばーい。てか、あんたすごいヤってなかった?」 「だってぇ。スズランくんの結構ずっと元気だからぁ」 「あー、スズランくんのせいにしたぁ。ひっどーい」 けらけらと楽しく笑いながら、女性たちは一斉にシャワールームに向かった。蘭はぼんやりと天井を見つめる。気持ちよさなど、最初の内に限界を迎えてしまった。よく気を失わなかったものだと、それだけを考えていた。 ぴとっと冷たいものが頬に当たる。恐る恐る顔をもたげると、そこにはアゲハがいた。コップに水を入れて持ってきてくれたようだ。 「立てる?」 まるで騙してきた人間とは思えない優しい声。蘭はこくんと頷き、重い体を起こす。アゲハに支えてもらいながら上半身を起こすと、コップを受け取って一気に呷った。ただの水なのに、やけに美味しく感じた。よっぽど喉が渇いていたらしい。 飲み干した後、アゲハにタオルとバスローブを手渡された。ずいぶん準備がいい。 「思ったより冷静だね」 タオルで体を拭いた後、バスローブを羽織りながら、アゲハがぽつりと呟くのを聞いた。騙されたのに、どうしてそんなに冷静なのだと言いたいんだろう。蘭は目を伏せながら答える。 「…そういう感じなのかな、とか…正直思ってたし。…3人もいたのはびっくりしたけど」 少しだけ恨めしそうな視線を向けると、ふはっとアゲハが吹き出す。 「ごめんごめん、さすがに刺激が強すぎたか。サプライズのつもりだったんだけど」 白々しくアゲハが言う。きっと逃げられないように黙っていたとか、ショックを与えて言いなりにしようとかそんなところだろう。それがわからないほど蘭は馬鹿じゃない。 ただ、アゲハさんに言われたなら俺はなんだってしたのに、なんて思ってしまうほどには蘭は彼に盲目になっていた。 「ていうか、蘭って童貞だった?」 思ってもいなさそうな謝罪の言葉を口にしてから、アゲハがあけすけに訊いてくる。そういうのは先に確かめておくことじゃないんだろうか。…多分、この人に常識を求めても無駄だろうけど。 「…では、ないかな。一応」 交際していた同級生と、そういう行為をしたことはある。気持ちよかったのは気持ちよかったけれど、どうにも攻める側というのが合わないのか、どっと疲れたと言う気持ちの方が大きかったのを覚えている。 何なら、今日みたいに相手が主導してくれる方が合っている気すらする。 それを伝えてみると、アゲハは、ああ、と納得したような顔をする。 「そんな感じする。て言うか、の才能あるよ、蘭」 くすくすと揶揄う調子でアゲハが笑う。いくらアゲハに褒められているとはいえ、仮にも男の身としては複雑な気持ちを抱かざるを得ない。 …けど。 「…ねえ、アゲハさん」 「アゲハでいいよ」 「……アゲハ」 何?とアゲハが首を傾げる。口を開きかけた時。 「アゲハー、代金ここ置いといていい?全員分」 いつの間にかシャワーを済ませて戻ってきた女性の1人が、アゲハに声をかけてくる。裸のままの現金がソファ横のサイドテーブルに置かれた。 「あー、いいよ。ありがと」 アゲハは碌に確認もせずにそう答えた。金に無頓着なのか、彼女たちのことを信用しているのか。やけに親しげだし…常連、と言うやつなのだろうか。 「楽しかった〜」 「じゃあね、スズランくん」 「アゲハ、またよろしくね〜」 次々に口にして女性たちはさっさと部屋を出て行ってしまった。 チラッと時計を見ると、蘭が連れて来られてから1時間ちょっとしか経っていなかった。蘭にとってはもっと長く感じた…と言うのは置いておいて、やけにあっさりとしてるなと思ってしまった。 颯爽と去っていった彼女たちにぽかんとしている蘭に気づいたのか、アゲハが口を開く。 「いつもあんな感じだよ。既婚者もいるし、サクッとやることだけやって帰ろーって感じなのかね?ま、俺としてもそう言う客の方がサッパリしててやりやすいけど」 さらっととんでもないことを聞かされてぎょっとする。改めて自分の常識なんて通じないところに来てしまったと、今更少し怖くなった。 「そんなことより…さっき、なんて言いかけてたの?」 ずいっとアゲハが顔を近づけてくる。近づかれると、バニラの匂いが体に充満した。どきどきと胸が高鳴る。 「…こ、この部屋。あの人たちが泊まるんじゃないんだね」 思わず、本当に言いたかったことではない言葉が出てくる。 「あの人たち、いつもすぐ帰るし。──蘭に泊まってもらおうと思って、今夜はとったの」 わざとらしいくらいの囁き声に、どくんと胸が高鳴る。まんまと彼に魅了される自分にわかりやすいと思いながらも、こんなに綺麗な人に期待させるようなことを言われて、靡かないと言う方が無理だ。 「て言うか蘭、そんなことが言いたかったわけじゃないよね?」 鋭い指摘にびくっとする。誤魔化しは効かない、と思い知った。 「…さっきの、本当?」 「さっきのって?」 『──めちゃくちゃにしてやりたい顔してる』 女性のセリフに同意するアゲハの言葉を思い出す。 獰猛な視線、低くて甘い声が蘇ってきて、体がぞくぞくしてきた。 「俺のこと──めちゃくちゃにしたいって」 アゲハは目を丸くしてから、くすっと笑ってゆっくりとジャケットを脱ぐ。 中に着ていた短い丈のTシャツから覗く腕に、赤いアゲハ蝶がいた。蘭はそれに目を奪われる。 無意識の内に口角が上がっていた。 ──ああ、やっぱり、綺麗だ。

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