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第3夜-6

「お、蘭くん。終わったのか──って、キリヤ。お前いつの間に来てたんだ?」 バーのカウンターに座らせてもらって雑談をしていると、ライが買い物袋を抱えて戻ってきた。レイナとキリヤの雰囲気がどこかおっかなかったので、穏やかな調子の彼に蘭はこっそりと胸を撫で下ろす。 キリヤがライに向かってケタケタ笑う。 「いつの間に…じゃないって。鍵開けとくとか不用心すぎ」 それに関しては同意だった。 中にレイナや蘭がいたとはいえ、別の部屋で施術をしていた彼らが不審者にすぐ対応できるとは思えない。 ライが気まずそうにへらへらと笑う。 「いや、レイナ達いるからいいかなって思って」 「密室にいたんだから、泥棒入ってきても気づかないよ」 と呆れた調子で蘭が思っていたこととほとんど同じことをレイナが言うと、「それもそうか」とライが苦笑した。ライという男は、人当たりは良さそうだが警戒心が薄いらしい。 蘭が言うのもなんだが、この世界でやっていけるのだろうかと不安になる。 「ねえ、店長。この子にアゲハの話してあげてよ。知りたいんだってさ」 いきなり本題に入るキリヤに、蘭は目を丸くする。そんな簡単に切り出していいものなのだろうか。 そう話を振られたライは、眉を寄せた。一気に、空気がピリッとするのがわかった。 「…どうして、アゲハのことが知りたいの?」 真剣な表情でライが蘭の目を見つめる。脅しているというわけではなく、見極めているように感じた。 蘭は緊張して生唾を飲み込んだ後、じっとライを見つめ返した。 「──アゲハが欲しいから」 端的に、本音を答えた。曖昧なことを言って誤魔化したら、教えてもらえない気がした。 ライは目を丸くしてから、眉間に指を当ててため息を吐いた。 「…本当に、人を誑かすのが得意だな。あいつは」 呆れたような、どこか悲しそうな声色だった。 ライは顔を上げて蘭に向き直る。 「俺らの目線で見たアゲハのことしか教えられないけど、知りたいことは教えてやる。──それを聞いて、自分で判断しろ」 ライの真剣な雰囲気に、レイナは目を伏せ、さすがのキリヤも肩を落として大人しくしている。 蘭はぐっと自分の膝に置いた手に力を込めた。 こんな風に人から探ることに対して、罪悪感を感じないわけじゃなかった。 けど、仕方ない。アゲハと一緒にいたって、アゲハのことを知ることはきっとできないんだから。 ──俺の心を奪った、アゲハが悪い。 蘭は落ち着いた声で「お願いします」と一言呟いた。

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