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幕間-アゲハ
「もう、やっていけない」
幼い雰囲気を残す顔立ちをした女の子が、そう呟いて涙をこぼした。
アゲハが、初めて一緒に仕事をした女の子。
「アゲハは、私のことなんか見ていない。もう、無理だよ」
去っていこうとする彼女をアゲハは引き止める。
「待ってよ」と掴んだ手は乱暴に振り解かれた。
「どうして?アゲハは私のことなんか道具としか思ってないくせに、なんで執着するの?」
アゲハは言葉を詰まらせた。彼女がそう問いかけたくなるのは至極真っ当な感情だ。けれど、矛盾した自分の気持ちを言葉にする術をアゲハは知らなかった。
いや、本当は…認めたくなかったのかもしれない。
人を信じるのが怖くて心を開こうとしないくせに、捨てられるのが怖いという自分の弱さを、認めたくなかったんだ。
「…さよなら」
ひどくか弱い声で囁いて、彼女が去っていく。認められない気持ちは言葉にできない。言葉にできなければ、声にもならない。
必死に強がって張り詰めていた細い細い糸は、ぷつんと切れてしまった。
心臓の奥が痛い。息がしづらい。
口にする勇気のない気持ちは、アゲハの中で暴走する。
胸を押さえながら、アゲハは呼吸を荒らげる。
また捨てられた、という事実は、アゲハの精神を壊すきっかけとしては十分だった。
もう2度と、捨てられたくない。捨てられる前に俺から捨ててやる。
俺を手放したくないなんて本気で思ってくれる人なんて──いないんだから。
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