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第12話 頑固な僕と柔軟な君

「さっき、紫季が告白されてるのを見て思った。……このままじゃダメだ、って」  凛太朗はそう言うと、すっと立ち上がり、紫季の正面に立った。  いつもの柔らかな笑顔は影を潜め、真剣な眼差しでまっすぐに紫季を見つめている。まるで、覚悟を決めた男の顔だった。  紫季は思わず視線を逸らす。だが凛太朗は、その頬を両手で包み込み、正面へと向き直させた。  否応なく、目が合う。 「紫季。……今すぐじゃなくていい。俺、本当はこんな勢いで言うつもりじゃなかったんだよ……でも……そうだな、なんて言えばいいんだろ……」  凛太朗は慎重に言葉を探し、ゆっくりと吐き出した。 「少しずつでいい。友達としてじゃなくて、一人の男として見てほしい。いずれは、恋人になりたいと思ってる。……俺はもう、腹を括った。本当は、告白して拒絶されるのが怖かった。友達としての立場すら失うかもしれない、紫季に気味悪がられてしまうかもしれないって。でも――もう後悔はしたくない。怖がられてもいい。嫌われてもいい。それでも、紫季を好きになってもらうまで、俺は諦めない」  言い終えた凛太朗の顔には、どこかすっきりとした表情が浮かんでいた。彼はそっと手を離す。  紫季はすぐに俯いた。その頭に、凛太朗がそっと手を伸ばす。 「な、何すんだよ!」 「いや……なんか、告白してみたら、紫季がますます可愛く見えてきてさ。つむじまで可愛いなって」  紫季は思わず顔を上げる。  その顔は、動揺と恥ずかしさで真っ赤に染まり、どうしていいかわからず戸惑っていた。  自分でも自覚があるからこそ、さらに頬が熱くなる。 「紫季、可愛い顔してる」 「なっ……!言うな!可愛いとか言うな!お前、急にキャラ変わりすぎだろ⁉︎」  凛太朗は、紫季のパニックをどこ吹く風といった様子で、口元に笑みを浮かべる。 「もう、決めたから。俺は紫季を落とす。開き直った。もう怖いもんもないしな。今までは、紫季が人付き合いを避けてるのも仕方ないって思ってた。でも、俺のことだけは避けられないからな。無視してフェードアウトしようなんて考えんなよ?紫季、俺ととことん向き合え」  そう言うと、凛太朗はカバンの中をガサゴソと漁り始めた。 「はい、作戦その一。紫季の好きなものは惜しまず与える。これ、好きなコンビニスイーツの新作!ガトーショコラのホイップのせ。絶対好きだろ?さっき探して、買ってきた」  袋を手渡され、中を見ると、中には他にもいろいろ詰まっていた。板チョコ、お煎餅、勉強中によく噛んでいるタブレットまで。 「凛太朗……」 「今日は特別だよ。バイト代入ったから、奮発した。……じゃ、俺は帰るわ。これ以上いたら、紫季が処理落ちしそうだし。また明日な。一緒に学校行こ。迎えに来るから」  そう言い残し、凛太朗はひらりと手を振って軽やかな足取りで帰っていった。 (あいつ……振り切れてから、ほんといちいち柔軟すぎなんだよ……) 「……はぁ」  紫季は、今日いちばん大きなため息をついた。

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