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第20話 恋人、つまり彼氏

 (あー……やばいやばいやばい。どうしよ…)  紫季は、自分の部屋で机に突っ伏してうなだれていた。  机の上には、単語帳と長文読解の問題集が開いてある。が、15分ほど前からずっと同じページで、全く進んでいない。 (さっきから、凛太朗の事ばっかり考えてる…全然勉強が手につかない。期末も迫ってるのにどうしよう…)    2人が恋人になってまだ、3日。 普通の恋人なら、付き合い始めて3日目なんて楽しくて仕方がない時期だ。無駄にSNSでやり取りしたり、長電話したり、学校帰りにデートしたり…相手の事を知り、あわよくば性的な事もしたい…と、いったところだろう。  だが、凛太朗と紫季は幼馴染だ。お互いの事はだいたい知っている。その上、超進学校の受験生でもある。彼氏ができたからといって、恋にうつつを抜かしていられない現実が待っている。  凛太朗とは、絶対に成績を落とすようなお付き合いはしないと約束をした。というか、された。  なのに…… 1人になると、どうしても思い出してしまう。  抱きしめられた時の胸の厚さ。金木犀のコロンの匂い。そして、優しく触れた唇の感触…… (あーっもう集中できない…)    紫季は問題集を閉じて、ベッドにダイブした。 すると、あることに気付く。 (またか……)  そう。紫季の股間のものが硬くなり始めている。 最近は、勉強の集中が切れるといつもこうなっている。 (今までこんな頻繁にならなかったのに……)  紫季は観念して、スエットズボンの中に手を入れる。こうなると、欲を発散しないと何も手に付かなくなるからだ。  紫季は淡く勃ちあがった自分のそれを、ゆるゆると扱いた。    そして、ふと手を止める。 (男同士って、ここを使うんだよな…)  先走りでヌルヌルと濡れた指先で、性器のその奥にある小さな窄まりをそっと撫でる———  紫季は、凛太朗と付き合うことになったその日の夜、すぐに男同士のセックスを調べた。  まずは、" 男同士 セックス" と検索欄に入力して、1番はじめにでてきたサイトで知識を入れることにした。  そのサイトは、初心者向けに懇切丁寧にアナルセックスのアレコレを書いていて、とても勉強になった。    紫季は、元々かなり勤勉だ。 それは何も学校の勉強に限った話ではない。アナルセックスについても、色々なサイトを見て沢山の知識を取り込んだ。  本当は本も購入したかったが、電子書籍は父に請求がいくし、本屋で立ち読みするのも購入するのも、紫季にはハードルが高かった。インターネットよりも、本から得るものが1番信憑性があると信じてる紫季にとっては、かなり痛手だったが仕方がない。 (……あいつが、入れる側なのは、もう……わかってる)  紫季は、枕に顔を押しつけたまま、喉の奥で唸るようにため息を吐いた。  考えれば考えるほど、自分が“入れられる側”であることは明らかだった。  そして、“あいつ”――凛太朗が、“入れる側”なのも。 (だって、どう考えても、勝てないじゃん……)  背の高さ、手の大きさ、筋肉のつき方。  声の低さ。言葉の重さ。  どこをとっても、凛太朗のほうが男らしくて、包み込んでくる感じがあって。  それに、あの目――。  この前、自分を見下ろしてきたときの、あの目。  獲物にとどめを刺す直前みたいな、でもちゃんと愛しさも滲んでる、あの顔を思い出しただけで、紫季の背筋がぞくっと震えた。 (あれ、どう考えても……「攻め」の顔だった……!)  顔から火が出そうになって、布団を頭までかぶる。  でも、そうすればするほど、思考の逃げ場がなくなっていく。 (僕が受けで、凛太朗が攻め……。そっか、僕、そうなるんだ……)  そんなの、ずっと先のことだと思ってた。  受け入れなきゃいけないってわかってるのに、頭の中でそれをはっきりと言葉にしてしまうと、どうしようもなく恥ずかしい。  だけど、ほんの少し――いや、確実に。  そんな自分に、ちょっとだけトクンとする心臓の音も聞こえていた。 (って、なに考えてんだ僕は!)  自分の中に「入れられる自分」を想像してしまったことが、情けなくて、恥ずかしくて、でも……ちょっとだけ甘い。  その全部がぐちゃぐちゃに混ざって、思いきり枕に顔をうずめた。  紫季は、初心者向けに書かれていたサイトの、"準備の仕方"のところを思い出す。  そして、つぷっ……と左手の中指をその窄まりに入れる。   

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